山口県全体で取り組むDX – 衛星データを活用した農地調査システムにより現地確認の効率化を目指す
DXによる農業行政事務効率化を目指した先進的な取り組みを行っている自治体にお話を伺い、本コラム欄にてご紹介しています。今回は、多面的機能支払制度や中山間地域等直接支払制度の交付金に必要な現地確認業務の事例です。県内自治体へ現地確認作業のDX実証への参画を働きかけた能美さん(山口県農林水産部農村整備課)と、実際に防府市で現地確認業務のDX化に取り組んだ波多野さん(防府市役所農林水産振興課)にお話を伺いました。
防府市の農林水産振興課はどのような業務を担っていますか
波多野:現在担当しているのは、多面的機能支払制度と中山間地域等直接支払制度の交付金に係る業務です。多面的機能支払制度では、農道や水路の補修作業など、農地を管理されている方の共同的な活動に対して交付金を支払います。一方で中山間地域直接支払制度は、平地地域との格差を是正するため、中山間地域での農業を営んでいる方に向けて条件を満たした場合に交付金を支払う制度です。どちらも現地確認が必須であり、かつ筆の数も多いことから負担に感じていました。
衛星データ利用実証に参画した経緯を教えてください
能美:現地確認業務では毎年目視による作業が発生するため、市町の職員の方々が大変な思いをしながら調査をされている話を以前から聞いていました。そんな時、衛星データ利用実証への参画を打診いただき、現地確認業務の負担軽減を期待して、県内全市町に実証への参加協力を呼びかけました。
波多野:市町のレベルで衛星データ利用の話を進めるのは少々ハードルが高いように感じていたので、県主導で進めていただいたのはありがたかったです。また、他業務の現地確認を経験した際に、衛星データの導入によって業務が効率的になったと話を聞いていたので、今回体験することができて良かったと思います。
現地確認業務の中で負担だった点はどのように改善されましたか
波多野:特に負担が大きかったのは、作業に時間がかかる点です。現地確認作業では対象の農地を一筆ずつ目視確認していくのですが、申請とは異なる状態、例えば田んぼや畑ではない状態になっているケースを早期発見することが重要なので、漏れが無いように気を張っていました。今回衛星データを利用したシステムを使ったところ、現地に行く前に要調査対象である箇所を整理できるようになり、作業時間が大きく削減されました。
また、天気や職員の他業務との兼ね合いで、「現地へ行ける日にどれだけ効率よく回れるか」が肝になってきます。基本的に現地確認は車で回っているのですが、衛星データの導入によって、車に乗ったまま確認が可能な箇所と降りてしっかり確認した方がよい箇所が事前に区別できるようになったり、車を停められそうな場所の目処をつけられるようになったりしました。このように事前準備が入念にできるようになり、効率的に現地を回れるようになりました。
現地確認のDXによって仕事の仕方は変わりそうでしょうか
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能美:今回の実証事業では市町担当の方にタブレットを用いて現地確認を行っていただきましたが、このタブレットが好評でした。従来、多くの市町では紙の図面を用いて現地を確認し、結果を書き込み、職場に持ち帰って整理するという流れで作業をされていました。一方、タブレットでは調査対象農地と併せて現在地も分かる上、調査結果もその場で入力できるので、作業性は上がると考えています。
波多野:防府市では図面とタブレットを併用して現地確認業務を行っていました。図面と紐づいた情報はそのまま使える一方で、筆が細かくなるにつれて現況が分かりづらくなるため、そういった場所はタブレットで拡大して確認できたのが便利でした。つまり、以前から使用していたツールに衛星データを組み合わせることで、更なる効率化を図ることができたのです。今後も従来から利用しているツールと衛星データ、それぞれのメリットを両立することで効率よく仕事が進められればと思っています。 -
山口県 農林水産部農村整備課の能美氏(左)、木村氏(中央)、防府市の波多野氏(右)
今後の導入を見据えた時に、課題もしくは期待として感じていることはありますか
能美:まずは費用面が課題です。全県で導入することで、市町の費用負担が軽減されることを期待しています。また、衛星データの解析により、対象農用地を筆毎に調査省略可と要調査の区分に仕分けていますが、判定の精度は100%には届かず、調査省略可と判定された中にも要調査と判定すべき農地が混ざっています。適切な交付金交付の観点から看過できることではありませんので、どう取り扱っていくか今後の課題として挙げられると思います。
波多野:防府市では調査省略可の筆は99.7% の精度で解析されていましたが、それでも全てでは無かったため、より適切に解析できるようになると良いと思います。防府市からも事例の共有などを通してシステムのブラッシュアップに貢献したいです。
他方、自治体は異動が多いのですが、新しく担当になった時にどうしてもその地域の勝手が分からず戸惑うことがあります。衛星データ導入によって効率よく現地確認業務を進めることができれば、その辺りの負担感も減っていくのではと期待しています。
衛星データの導入を検討している他自治体へ向けてメッセージをお願いします
波多野:DXは最初の一歩がすごく大変だとは思います。既存のやり方をデジタルの枠組みに落とし込むのには私たちも苦労しましたが、その時は手がかかったとしても、一度デジタル化してしまえば来年、再来年と業務量は減っていきます。もしDXに踏み込むのを躊躇っている理由が目先の業務量の多さであれば是非とも断念せず、未来を見据えて前向きに業務効率化へ取り組んでみてはいかがでしょうか。