農地現地調査にかかる作業時間が8割減-DXによる行政の事務効率化
昨今、行政における人手不足が全国各地で問題になっており、DXの活用による事務効率化が求められています。 そこで、先進的な取り組みをするいくつかの自治体を取材し、DXやAI等によってどのような効率化を図っているかお話を伺いました。 まずは農業の現地調査にかかる作業の削減に取り組んだ福岡県飯塚市の事例をご紹介します。
飯塚市の中で、農林振興課農政係 はどのような役割を担っているのでしょうか
大きく言えば、農林業分野における飯塚市の産業振興を担っています。中でも農政係は、政策的な面から農家の所得向上に関する事業や施策の展開を行っている部門です。農家が正しく、確実に、納得して交付金を受け取れるために、農地現地調査等の実務を担っています。
今回、衛星利用実証へ取り組まれた経緯を教えてください
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農地の現地調査には課題感を持っていた中、福岡県の宇宙関連ビジネス製品・サービス開発支援事業を進めている株式会社デジオン(以下、デジオン)から実証協力の依頼を受けました。私共としてもここ数年程、何らかのデジタルな手法を使って現地調査を効率化できないか試行錯誤していたため、それが解決できるのであれば取り組まない理由は無いということで、今年度から開始いたしました。
実は以前ドローンの実証にも取り組んだことがあったのですが、この時は実証継続のための予算化に苦労し、断念したという経緯があります。一方今回は、実証フィールドとしての参画であったため、人的コスト以外の負担はありませんでした。予算的な負荷もなく、楽をして成果が得られるのであれば、省力化で得られた余力を他の農業行政にも注力することができると考えたのです。 -
飯塚市 農林振興課の神原氏(左)と寒竹氏(右)
従来行われていた現地調査には、具体的にどのような課題があったのでしょうか
正直に申し上げると、長年大きな問題もなく当たり前に行っていた作業だったため、どの辺りが課題であるのか曖昧な部分がありました。実証を通して、心理的、体力的、またコスト面で物凄い負担が存在していたことがわかりました。
従来の作業では、まず各地区分の地図を何十枚も作成し、農地の場所に色をつけます。ここまでの作業に1週間程かかり、実際に現地で調査を行うのに概ね1ヶ月をかけ、最終的には現地調査で得られた情報を一つ一つ確認しながらエクセルの一覧表へ手入力を行います。そして誤って記録をつけてしまった箇所を洗い出し、再び現地での調査を行ってようやく完了です。このような作業を毎年6~8月にかけて行っており、特に現地調査前の地図作成作業に関しては、一部の職員に属人化している状態になっていました。作業が長年繰り返され常態化することで、担当者に掛かっていた負荷が見えなくなっていたのです。
デジタル化された現地調査業務について教えてください
現地調査のデジタル化においてはデジオンと協働し、農地調査支援アプリケーション「イナリス」を実装しました。デジオンは地元福岡県に根付いた企業であり、飯塚市の業務フローを分析した上でアプリケーションをカスタマイズしてくださいました。 イナリスによって、地図の準備からエクセル入力までタブレットで完結し、従来の地図作成や印刷作業、エクセル表への入力は不要となりました。事前に衛星データ解析による作付け判定を行い、判定が困難であった圃場(従来調査対象の約1~3割)のみを対象として補完的に現地調査を実施します。現地調査にはタブレットを持参し、アプリケーション上に表示される衛星画像で圃場位置等を確認します。目視確認結果も直接入力する形です。 従来は紙の地図を見ながら携帯電話で位置情報を確認していたのですが、タブレットさえあれば現在地を見ながら圃場位置の確認が可能になりました。また、過去の情報もデータベースに入っているので、紙の地図を持参しなくても簡単に昨年との変化を見比べることができるようになりました。
衛星データを使用したアプリケーションの導入により、実際に作業の負担は軽減されましたか
従来は現地調査に係る総作業時間が4,500分だったところ、導入によって820分となり81%も削減されました。特に確認結果のエクセル入力は時間的な負担が大きかったので、改善できたのは成果として大きかったと思います。
加えて、以前は現地確認担当者が持ち帰ってきた地図を広げて小さい地番を1つ1つ見ながら入力していたところ、導入後は担当者が現地で自ら入力するようになったので、作業量だけではなく心理的負荷も減ったことがわかりました。対象者へのアンケートから算出された主観的作業負荷の平均スコアは70から33へと減少し、52%削減された結果が得られました。元々は20%削減を目標としていたのでこの結果に驚くと共に、これだけ減ったということは従来の作業負荷がいかに大きかったのか気づかされました。
また、ヒューマンエラーも減少しましたね。紙の地図を使用していた時は現在地との照らし合わせがうまくいかず誤った記録をつけてしまい、結果的に再調査に赴かなければならないケースも多々あったのですが、現在はアプリケーション上で現在地も一緒に確認できるので格段にミスが減りました。
衛星データを使用した業務効率化における課題や期待感について教えてください
- 個人的な主観もあるかもしれませんが、衛星データを活用した技術は汎用性が高いものだと思います。農林振興課の中にも、衛星データの導入によって置き換えられるアナログな業務が、まだあるように感じます。飯塚市全体で見たときも、インフラ整備や防災、あるいは地図を使う業務などで衛星データを使えると思うので、市の行政全体に普及できれば、色々な業務の効率化、省力化につながるのではと感じています。 一方で懸念点としては、やはりコスト面を感じています。現状は国からの推進交付金の範疇で出来ることだけをやっているので、今後市町村レベルの自治体がその予算規模の中で取り組むと仮定した時に、コストの部分はハードルになるのではないでしょうか。例えば衛星画像は広域を捉えているため、1枚でおよそ10個の自治体を補えるとした時、飯塚市だけ見るよりも10個の自治体を見る方が費用対効果の面では良さそうです。しかし、現地調査の方法や見たい作物は自治体ごとに異なり、飯塚市の仕様が各自治体に当てはまるとは限りません。今回、飯塚市が実証事業として衛星データを活用したモデルを提示できたので、県にハンドリングしてもらいながら、他自治体の農業行政へも広がっていくことを期待しています。
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現地調査を担当されている村瀬氏(左)とデジオンの渡辺氏(右)
衛星データの導入を検討している他自治体へのアドバイスがあればお願いします
まずは「何を」衛星データで見たいのか、念頭に置いて取り組むのが良いのではないでしょうか。衛星データを使えば全てが明らかになる訳ではなく、極論を言えばキャベツと白菜を見分けるのは難しいと思います。その自治体の主要作物は何なのか、何を衛星で確認しなければならなくて、何がネックになっているのかを明確にしながら、衛星データのメリットと自分たちの需要がマッチしているのか検討する必要があると思います。
また、私たちが一番苦労したのは、実はデジオンとのデータのやり取りでした。実際に事業に取り組むとなると、事業者との密なコミュニケーションが必要になります。一方的にお願いしたら衛星データでポンと解決するわけではなく、事業者と伴走しながらじっくり取り組む姿勢が大事だと思います。
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