高性能マイクロ波放射計3 (AMSR3)が捉える地球の表情
RESTECの衛星地球観測事業では、高精度が求められる衛星データの校正検証や、ユーザーへの膨大なデータの配信などさまざまな技術で宇宙開発利用を支えています。
今回のコラムでは、6月に打ち上げられたAMSRシリーズについて担当者よりご紹介いたします。
「いぶきGW」打ち上げ
高性能マイクロ波放射計3 (AMSR3)を搭載した温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)は、H-IIAロケット最終号機(50号機)で種子島宇宙センターから2025年6月29日1時33分03秒(日本標準時)に打ち上げられました。
多くの方のご尽力により打ち上げの日を迎え、H-IIAロケットはAMSR3をのせ、力強く地球を駆け抜けました。天候にも大変恵まれ、全く危なげなく地球から旅立っていく様子に、頼もしさを感じました。また、打上3日前に、二重虹(ダブルレインボー)に遭遇することが出来ました。ダブルレインボーには「目撃すると幸運が訪れる」という言い伝えがあるようで、打ち上げを控えて自然の贈り物から勇気を頂きました。
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GOSAT-GW/AMSR3打上の様子 -
GOSAT-GW/AMSR3打上の様子 -
打上前に観測された二重虹
AMSR3は、現在運用中のGCOM-W衛星搭載AMSR2の後継センサになります。そのAMSR2はAqua衛星搭載AMSR-EやADEOS-II衛星搭載AMSRの後継センサです。これらのAMSRシリーズセンサにより、2002年から現在までの約23年に及ぶ水に関する様々な量が、昼夜・雲の有無によらず観測されてきました。そして、さらにAMSR3へと観測が継続されていきます。
AMSRシリーズは、“継続は力なり”という諺どおり、毎日休むことなく一定の精度のデータをほぼ定刻に提供し、数値予報モデル・漁業・航行支援等への実利用分野で利用されています。
RESTECでは、AMSRシリーズの観測データの処理を行い、他衛星や地上観測データ等と比較し、安定した精度のデータを毎日定常的に配信することに貢献しています。
AMSRシリーズ 気候変動への貢献
また一方、約四半世紀に及ぶ継続観測により気候変動への貢献も大きくなってきました。
AMSR2の海面水温が上昇してきた時は、これが本当の地球からのシグナルか確認を行いました。具体的には、AMSR2センサに異常がないかを確認するために海面水温に変換する前段階の観測値の確認を行いました。その後、観測値を海面水温に変換する過程で問題ないかを確認し、最後に海上ブイ水温データと比較を行い、精度に問題ないことを確認しました。温まりにくく冷めにくい海水温の上昇をAMSRシリーズセンサが捉え、この海面水温の上昇は、AMSRやAMSR-EからAMSR2と観測が継続されたことで、より確信が持てる結果となりました。
AMSRシリーズでは、このような海面水温上昇や、2017年7月から2025年4月まで約7年9カ月も続いた日本の気温や漁業に影響を及ぼす黒潮大蛇行の現象などを捉え、陸上・海上・大気の水に関する量を観測しています。今後AMSR3では、どのような地球の表情を捉えることが出来るのか大変楽しみです。
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2018年5月
黒潮大蛇行中のAMSR2海面水温分布 -
2025年5月
黒潮大蛇行終了後のAMSR2海面水温分布
RESTECでは、AMSRシリーズセンサが地球から受信したメッセージを毎日定常的に正しく伝えていくために、観測されたデータ処理システムの運用業務・精度維持のための校正検証作業・利用者への定常配信作業を担い、JAXA等による我が国の宇宙開発利用を支えています。
関連リンク
- リモートセンシングとは
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- コラム 「衛星データ利用が漁業の可能性を広げる」JAFIC システム企画部 斎藤部長
- コラム 環境省気候変動観測研究戦略室 岡野室長「GOSAT-GWと共に排出量削減へ貢献する」