環境省気候変動観測研究戦略室 岡野室長  「GOSAT-GWと共に排出量削減へ貢献する」

2024年06月05日

日本政府は2009年に世界で初めての温室効果ガス観測専用衛星「GOSAT」を打ち上げました。それ以降、GOSATのデータはCO2やCH4濃度の変動や、亜大陸規模での温室効果ガス吸収排出量などの変動を明らかにし、気候変動に関する科学の発展や政策検討へ貢献してきました。
2024年度には3号機となる「GOSAT-GW」の打ち上げが予定されています。
気候変動政策の面から地球観測衛星データの利用を推進する環境省の気候変動観測研究戦略室岡野室長へ、GOSATシリーズについてお話を伺ってきました。

気候変動観測研究戦略室について教えてください。

  • 地球環境局は地球温暖化防止、オゾン層保護など地球環境保全に関し、政府全体の政策を推進しています。環境行政における政策の基礎を固めるために、これからは人工衛星を初めとする様々な地球観測データを行政が利用することが非常に重要だと考えています。その推進も含めて、前身の脱炭素化イノベーション研究調査室が担っていた温室効果ガス(GHG)観測を中心業務として、令和5年7月に新設されました。

    具体的にお話しすると、GOSATをはじめとする衛星、航空機、船舶そして地上計測機器などの観測データを使って、気候変動に関わるCO2やCH4などのGHGの濃度や排出量を観測し政策に活用することに取り組んでいます。
  • 環境省気候変動観測研究戦略室 岡野室長
    環境省気候変動観測研究戦略室 岡野室長

人工衛星のデータは地球環境保全に関する政策にどのように役立っていますか?

人工衛星は広範囲を効率的に低コストで観測することができるという利点があります。これはどの政策分野でも同じだと思います。
そのような人工衛星データ利用の成果について、気候変動分野における国際的な面と国内的な面のうち、まずは国際的な面をお話しします。

現在、気候変動問題に関する国際的な枠組としてパリ協定があります。このような枠組みは1997年の京都議定書採択から続いていたわけですが、その頃はCO2などの温室効果ガスの削減義務はいわゆる先進国のみにあり、途上国にはそのような義務は課せられていませんでした。しかし、2015年にパリ協定が採択されたことで、途上国も含めた世界全体、地球全体で温室効果ガス排出の削減を約束して、きちんと進捗管理していくことになりました。
その進捗管理のためには、今現在のCO2やCH4の濃度や排出量がどうなっていて、それらを今後どの程度抑えないといけないのかを全地球的に把握することが必要です。
環境省、NIES、JAXAの3者共同ミッションであるGOSATシリーズは、高度約700kmを約100分間に地球一周というスピードで周回しながら、温室効果ガスを全地球的に観測しています。
この観測データを用いることで、世界全体の温室効果ガス削減への取り組みが、今どの程度上手くいっているのか把握する研究がされています。黒線がGOSATの観測データ、色のついた線が様々なレベルの排出シナリオに基づく大気中濃度を表わします。大気中のGHG濃度の変化は、気温の上昇や降水量などよりも数十年早く観測できると言われているので、濃度を測定することで、これまでの取組の評価や、将来の気温上昇に備えることができます。

  • 出典:GOSATシリーズ 特別報告書(2023年12月 環境省、国立環境研究所)​

また、パリ協定では、各国が、2050年に排出ゼロなど、目標年を定めて削減する義務があるため、国ごとに何トン排出したかを定期的に国連に報告することになります。各国は、燃料消費量などの統計データを用いた計算結果を国連へ排出量として算出し報告することになりますが、その排出量が正確かどうか、GOSATを用いて、可能な国から検証しています。 これが、国際的な面でのデータ活用となります。

  • ついで国内的な面です。

    パリ協定では、日本にも当然の排出削減義務があります。日本は、2030年までに2013年度比で46%削減、さらに50%の高みに向け、挑戦を続けていくとしています。加えて、2050年ネットゼロ(吸収量を引いた温室効果ガス排出量をゼロにする)という目標がありますので、それに向けて日本自身も、きちんと約束を守らないとなりません。

    そこで、排出量の確認に観測データを用いることとなります。
    昨年発表したデータですが、2009年~2019年のGOSAT観測データを活用して、検証したところ、GOSATの観測値と統計から推定した値が誤差の範囲で一致する(傾き1の線上に乗る)ことを確認しました。

GOSATシリーズは地球環境分野でどのような影響を与えたのでしょうか。

  • まず、国際的な影響や成果についてお話しします。

    地球温暖化や気候変動科学の分野では「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」という組織があり、日本も様々な専門家をIPCC報告書の著者として推薦しています。IPCCは任務ごとに3つの作業部会(ワーキンググループ)と1つのタスクフォースが置かれ、科学研究から得られた最新の知見を評価しています。その結果は5~6年ごとに評価報告書として公表されていて、2021年に第6次評価報告書(AR6)が公表されたところです。
    その中の気候変動科学を扱うWG1の評価報告書では、GOSATの論文が24本も取り上げられています。これは2009年のGOSAT1号機打ち上げ以降15年間、継続して観測を行ってきた結果であり、科学界から非常に高い評価と期待をいただいていると感じています。
    また、同じくIPCCがまとめている各国の排出・吸収量の算定報告に関するガイドラインでは、地球観測衛星の利用について触れていますが、そこには有効な衛星としてGOSATが明記されています。削減報告内容の確認や透明性を保つために、観測データが非常に有効であるとして利用を推奨しているところからも、今後各国によるGOSAT観測データの利用拡大が期待されています。
  • 環境省気候変動観測研究戦略室 岡野室長
    環境省気候変動観測研究戦略室 岡野室長

実際、他国によりGOSAT観測データを活用して自国の算定した排出・吸収量を比較検証する動きが活発化しています。メタンの測定結果はインドにより昨年までに二回実施されています。二酸化炭素として最初の事例は、2023年11月にモンゴルが行った国連への報告でした。その報告の中でモンゴル政府が統計情報から計算した値とGOSATの観測値を確認し、素晴らしく一致したという内容が、日本政府への感謝の言葉とともに記載されました。
排出量の確認のための数値に関しては、研究者がデータベースから算出して更新している数字もありました。しかしその数値はモンゴル政府が算出した値と比較すると高い値で、積み上げ値をそのまま報告した場合、モンゴル政府の報告値が低すぎるのではないかという懸念が生じかねません。今回GOSATシリーズの観測データによる検証を添えて報告したことで、モンゴル政府の算出した値が確かなものだということが示せました。これはモンゴルと日本両国にとって大変大きな成果だと考えています。
GOSATシリーズは1号機から3号機にあたるGOSAT-GWまで号機を重ねるごとに解像度が細かくなりデータ量も増えていきます。今後はモンゴルのような利用事例を、中央アジアの国々やインド、コーカサス地域、アジア地域などへも広げていこうと考えています。そしてゆくゆくは、いろいろな国が独自の方法を用いるのではなく、日本の排出量の算定手法を国際標準化したいと考えています。同一手法であれば、お互いの結果の確認も比較も簡単です。立てた排出削減目標をきちんと守る、守ったことを科学的・客観的に確かめることで、日本はGOSATシリーズで世界に貢献したいと考えています。

今後、日本国内の施策の活用についても進めていきたいです。
今、日本の各地域で脱炭素のための取り組みが進行しています。GOSATは大陸レベル国レベルには対応できるのですが、もっとスケールの小さい都道府県以下などの地域レベルでの観測には残念ながらまだ対応できていません。特に、都市は人が密集しており、IPCCによれば世界の温室効果ガス排出量の約70%を占めるとされています。GOSAT-GWでは、それら都市や地域での排出を推定し、地域の現状把握や排出削減施策に活用いただくことも進めたいと考えています。

GOSAT-GWの打上げに向け、意気込みや期待をお願いします。

  • GOSAT-GWは2024年度内に打ち上げる予定です。

    実はパリ協定に基づいて、途上国も含めた全ての国が自国の排出量を国連に報告しなければならない初めての提出期限が2024年の年末にあります。その後も、各国が2年ごとに報告を行うことになります。この報告を活用した、目標への進捗状況の追跡等、パリ協定の言葉で「透明性」と言います、を今後世界で実施していく必要があります。さらに、永久凍土地域からの放出など、必ずしも国からの報告に含まれないものも誰かが継続的に観測して必要に応じてアラートを出す必要があります。
    この透明性向上への貢献という意味で、GOSAT-GWは本当によいタイミングで打上げできると感じています。
    世界、そして日本の各地域の方々が行っている排出量削減の取り組みに貢献できるように、我々も頑張っていきます。
  • 環境省ロビーに展示されているGOSATシリーズの模型

GOSATシリーズについて、さらに詳しく知りたい方は、昨年の気候変動枠組条約の締約国会議(COP28)で環境省と国立環境研究所から発表した特別報告書をご覧ください。