宇宙から見たこんにゃく畑

2023年03月07日
  • 2023年2月6日(月)、群馬県高崎市内にて開催された全国蒟蒻原料協同組合の皆様へ「宇宙から見た蒟蒻畑 -衛星リモートセンシングの基礎と活用に向けた取り組み-」と題した講演を行いました。
    同組合からの依頼によってRESTECが実施した、こんにゃく芋の生育予測へのリモートセンシングの利用検討に関するご報告です。

    スマート農業へのリモートセンシング技術を利用した取り組みは、多くは主食である米や大豆などを対象として行われていました。こんにゃく芋を対象にした取り組みは全国でも初めてではないでしょうか。
  • 講師:研究開発部 小田川 信哉

こんにゃくについて

こんにゃくは、芋からできていることをご存じでしょうか?

もともと山間地で栽培されていたこんにゃく芋の安定した栽培法が確立したのは昭和30年頃、現在では品種改良や技術革新によって平坦な畑での栽培が主流となっています。
昭和50年頃を境に収穫量は減少し、製品であるこんにゃくの消費量もまた近年減少傾向にあります。

そこで、こんにゃく生産の安定化、消費拡大のために様々な取り組みが行われています。
例えば、全国シェアの9割を占める群馬県を例に見ると栽培農家数は減少しつつも、一戸当たりの栽培面積は倍以上に増え、大規模経営による効率の向上がうかがえます。
また、こんにゃく原料の生産に関する低コスト化・栽培の省力化など様々な技術開発が行われています。
製品であるこんにゃくに目を向けると、その消費量は減少傾向にありますが、健康志向の消費者に向けたこんにゃく麺などの新たな商品開発や、海外輸出による需要喚起に取り組まれています。

なぜリモートセンシング?

今回ご依頼いただいた全国蒟蒻原料協同組合は蒟蒻生産の2つ目の過程を担う荒粉・精粉加工業者の集まりです。
なぜ、加工業者の皆さんが、リモートセンシングを利用した生育予測に関心を寄せたのでしょうか?

こんにゃくの生産過程に、その理由があります。
まず、こんにゃく芋を農家が栽培し、荒粉・精粉加工業者がこんにゃく芋を蒟蒻粉(精粉)へ加工、加工された精粉を製造業者がコンニャク製品へ製造しスーパーなどを経由し消費者の元へ届きます。

こんにゃく芋は植え付けから収穫までおよそ3年を要しますが、天候や病気の影響を受けやすく収穫量の変動が非常に大きい作物です。
また、生芋の状態での保管が難しいこともあり、荒粉・精粉加工業者が仕入れるこんにゃく芋の価格も、年によって大きく変わることが課題でした。

組合の皆さんは、健全な事業のためにはこんにゃく芋の生産量に関する情報が非常に重要だと認識されていましたが、現状、公的な統計が主な情報源のようでした。
また、コロナ禍によって現地調査もままなりません。
そこで、リモートセンシングに可能性を見出されたということです。

成果と課題

  • 今回、群馬県安中市と富岡市の圃場を対象として、次の2点についてリモートセンシングでの解析に取り組みました。

    ①こんにゃく芋の作付面積の推定
    ②「みやままさり」という品種の1年生と2年生の判別

    解析に使用したのは、ESA(欧州宇宙機関)が公開するSentinel-2衛星のデータと、農林水産省が公開している圃場の位置情報(筆ポリゴン)です。
    どちらも無料で使用することができます。
  • 農林水産省 筆ポリゴン公開サイト

解析の結果、①作付面積の推定に関して、約9割超の精度でこんにゃく畑を判別することができました。
さらに、②1年生と2年生の判別についても約8割の精度で推定できるなど、こんにゃく芋の作付面積の推定へのリモートセンシング技術の有用性を確認しました。

一方で、課題もあります。
こんにゃく芋は、病虫害に対してきめ細かく様々な対策をとるため、時期による状態変化が大きいことが見込まれます。
また、地域によって育て方も異なるため、今回のような手法の適用については、地域ごとに確認を行う必要があります。
例えば、圃場が狭い地域を対象とした場合、無償で利用できるデータでは空間分解能が粗く、圃場の推定が難しいことも考えられます。
そして何よりも、最初に現地調査を行い、それによって衛星データの推定結果の精度を上げていく必要があります。

事業としてこの技術を利用していただくためには、これらの課題を乗り越えなくてはなりません。

最後に

全国蒟蒻原料協同組合さんでは、約15年前にもこんにゃく芋の収量予測へのリモートセンシングの活用を検討されたことがあるそうです。
その当時は、空間分解能、時間分解能など様々な制約により断念されたとのことでした。

宇宙利用を取り巻く環境は近年大きく変化し、特にリモートセンシングについて時間分解能の向上やデータ量の増加など大きな技術革新がすすみました。
RESTECは今後も、社会でのリモートセンシング利用の拡大のため、技術実証や新たなサービスの展開に取り組んでまいります。

関連リンク

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