JAXAにおける宇宙航空活動及び地球観測の取り組み状況

2022年04月04日


RESTEC月例講演会
講演:国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 理事長 山川 宏 氏

RESTECでは社内勉強会として毎月1回様々な分野の方にご講演をいただいています。
第100回を迎えた2022年1月の講演会ではJAXA山川理事長に地球観測を中心にJAXAの宇宙航空活動についてご講演頂きました。
本コラムで、その内容をお伝えします。

JAXAの地球観測の取り組み

地球観測という分野へJAXAがどのような観点で取り組んでいるのか、俯瞰的な視点を意識してお話しいたします。

まず、NASDA時代を含めたJAXAとしての地球観測衛星の打ち上げ・運用・データの利活用についてお話しします。「もも1号」「ふよう1号」を始まりとして、歴代それぞれの目的に応じて、様々な地球観測衛星を打ち上げ、運用してきました。それと同時に、次の世代の地球観測衛星を準備しているところです。

今運用している衛星をいくつかご紹介します。
まずは、陸域観測技術衛星「だいち2号」(ALOS-2)です。昼夜天候に関係なく高分解能で観測を行うレーダ観測衛星です。特に災害状況把握や森林の観測等様々な分野に利用しています。
次に、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)です。炭素循環やエアロゾルなど気候に関係する多種類の観測を行っています。
水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)は、例えば海氷の状況を把握するなど地球規模の水循環を観測しています。
GPM/DPR(全球降水観測計画/二周波降水レーダ)は、地球全体の降水観測に大きく貢献している衛星です。
そして、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)・「いぶき2号」(GOSAT-2)はCO2やメタンを観測しています。特に「いぶき」は世界初の地球温暖化ガス(GSC)を観測する専門の衛星として、既に10年以上のデータを蓄積しています。「いぶき2号」も引き続き、高精度なCO2・メタン等を観測しています。
超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)は少し毛色が違います。衛星は超低高度(300㎞以下)を維持するとなると、普通は大気の影響で墜落してしまいますが、高効率イオンエンジンで速度制御等を行うことで、低高度を維持した長時間観測を実証した衛星です。軌道高度167.4 kmという超低高度の飛行実績を持ちます。

地球観測の3つの目的と活用例

  • JAXAが様々な地球観測衛星を運用する目的は大きく3つです。
    1つ目は防災・災害対策・安全保障など、様々な観点での活用。
    2つ目は気候変動への活用。
    3つ目は新領域・産業競争力分野での活用につなげることです。
    今回は主に1つ目と2つ目の目的についてお話しします。

    人工衛星を用いて観測する事象をあげると、台風・集中豪雨・洪水・土砂災害・火山・地震・森林火災・津波などでの活用があります。
    具体例をいくつか挙げていきたいと思います。

まず直近の話題ではトンガ火山島噴火に関する衛星観測です。センチネルアジア及び国際災害チャータといった、衛星データを使った災害対応のフレームワークからの要請を受け、「だいち2号」で緊急観測を実施いたしました。火山噴火発生前後の画像から島が消失したことがわかります。同様に国際災害チャータで提供された欧州の光学衛星の観測画像では雲が映りこんでいますが、レーダ衛星である「だいち2号」では雲は関係なくきれいな画像が取得できています。
海底火山の噴火に関する状況の把握においては、主に「だいち2号」と「しきさい」が活用されています。「だいち2号」が噴火の状況を、「しきさい」が軽石の漂流状況をとらえました。これらのデータは、実際に活用されている海上保安庁や沖縄県で対応されている機関 などに提供しいます。またJAXAのHPでも検索できるようなっています。

災害時の典型的な活用として、豪雨災害での観測を紹介します。2021年7月の豪雨において、国土交通省や林野庁の要請をうけ、「だいち2号」による土石流の痕跡などの観測を行いました。災害時、JAXAは緊急観測を実施し、観測データを防災関係機関に提供しています。

緊急観測についてご説明をします。普段、衛星は定常的な観測計画に則り運用されています。災害発生時、あるいは災害が発生されると予見された時の政府や地方自治体からの要請によって、観測計画を見直し緊急観測を実施します。緊急観測によって、例えば台風前後のデータを比較し、被災地域を特定、現地への迅速なデータ提供を行っています。このような緊急観測は国内外で行っており、国際的なフレームワークを通じた海外からの要請もかなり多くあります。

緊急観測に関する枠組みとして、内閣府防災他、政府指定行政機関や地方自治体と個別に協定を締結しています。
また、教育機関とも衛星データ利用に関する協力協定を結び、共同研究を進めています。
例として東京大学と共同開発を行ったToday’s Earthと呼ばれるシミュレーションシステムをご紹介します。過去のデータに基づいた河川の氾濫危険度を予測する研究です。これに基づき、発災の30時間前には氾濫による破壊箇所をかなりの割合で推定できたという結果を得ました。現在、実際の利活用への検討を進めています。

気象庁とはNASDA時代からのデータ交換協力に引き続き、データ利用実証を気象庁が、データ処理技術の開発をJAXAが行う相互協力体制を構築しています。例えばGPM/二周波降水レーダの取得したデータを気象庁の様々な業務に利用いただいています。
また、JICAとも連携し、「だいち2号」を用いた熱帯雨林早期警戒システム(JJ-FAST)を共同で運営しています。これは約80か国を対象として、衛星観測によって広域な違法伐採などの把握を可能にし、世界中の多くのユーザーに活用されています。
また、国立極地研究所とは「しずく」のデータを活用した北極海の海氷観測を行っています。世界の多くの宇宙機関と同様に、北極域の海氷の様子を逐次アップデートしています。
JAXAはNASA(アメリカ航空宇宙局)やESA(欧州宇宙機関)など60か国以上の国や地域と国際協力を行っており、その連携の一つに地球観測も含まれています。

先に触れた国際災害チャータについてもお話ししたいと思います。世界17の宇宙機関による国際協力プロジェクトとして長年運用されてきました。大規模災害発生時に各国の地球観測衛星による緊急観測を行い災害対応のためのデータを提供します。
アジア太平洋地域に特化した同様のプロジェクトとして、センチネルアジアがあります。これは文部科学省とJAXAが共催するAPRSAF(アジア太平洋地域宇宙機関会議)の枠組みから、2005年に立ち上がったイニシアチブです。現在ではアジア太平洋地域の100以上の宇宙機関・防災機関・データ解析機関が、オペレーショナルな状態で災害に備えている活動です。具体的な活動例としては、2021年12月のフィリピンで起きた台風災害では、様々な衛星で緊急観測を行い、そのデータを活用した情報を現場へ提供しました。

もう一つ大きな国際的な協力として、全球降水マップ “GSMaP” があります。GPM/二周波降水レーダ(DPR)を中心として、「しずく」を含む複数の衛星データを組み合わせることで、ほぼリアルタイムで全球の降水マップを提供しています。特に日本近海については高精度なデータを提供し、多くのユーザーにご活用いただける非常に重要な取り組みと認識しています。

最近では、地球観測衛星と第一次産業との連携が非常に重要になってきています。農業に関する例として、JAXA農業気象情報提供システム(JASMIN)というものがあります。これは農作地の作況状況を判断するために農林水産省で活用されています。加えて世界各国の農業省とも連携を図っており、非常に重要な取り組みの1つであると認識しています。

また、この2年間我々が苦しんでいる新型コロナウイルスに対する取り組みとして、NASA・ESAと協力した地球観測ダッシュボード(Earth Observation Dashboard)という活動があります。この活動では、各機関の衛星データを組み合わせる或いはそれぞれの衛星の特徴を生かして、コロナ禍において世界各国・地域の経済活動状況や地球環境の変化に関するデータを提供しています。

JAXA事業へのRESTECの貢献

ここからは、RESTECに支援いただいているJAXA事業をいくつかご紹介します。

ひとつは、「ひまわり」やJAXA地球観測衛星データからエアロゾルを推定するアルゴリズムの開発において、非常に大きな貢献を頂いていると認識しています。エアロゾルを可視化することは地球環境の変化という問題に非常に大きな意味があります。
また、LバンドSARデータによる全球モザイク&森林・非森林マップの整備・公開の取り組みにも貢献いただいています。衛星による長期的な観測を続けることで、森林域の変化を把握するものです。
「だいち2号」による台風下の海上風の推定という取り組みでも貢献いただいています。2020年8月にアメリカ南部に上陸したハリケーンの事例では、海上風分布を算出し、風速モデル関数の検証・高精度化と海上風速の推定が可能であることを確認しました。
更に、「だいち」シリーズ衛星による土地被覆分類と経年変化の把握に関する取り組みがあります。長期的な観点で土地の活用に関するデータを蓄積するものです。福島県南相馬市を例に挙げると、東日本大震災前、震災の約5年後、震災の約10年後の3時期の衛星データによる土地被覆状態の変化から、復興/復旧の様子を見ることができます。震災前に多く見られた水田が被災後に減少し、最近復活してきている状況を見て取ることができます。
他にも、分かり易くユーザーにデータを提供するための衛星やモデルデータの可視化Web環境(AMSR地球環境ビューワ・JAXA「ひまわり」モニタ・Today’s Earth公開web等)の開発・運用など、すべてを申し上げる時間はありませんが、RESTECには多くのご協力を頂き、連携を行っています。

今後打ち上げ予定の地球観測衛星について

JAXAが今後打ち上げる4つの地球観測衛星についてお話しします。

まずは先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)です。この衛星は「だいち」に続く光学センサを搭載し広域(直下幅70㎞)と高分解能(直下0.8m)を両立させた観測を行います。今後重要な貢献をしていく衛星だと確信しています。
次に「だいち2号」の後継機として、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)を計画しています。この衛星は「だいち2号」と同じ分解能(3m)を維持しながら約4倍の観測幅を持ち1回の観測で九州全域をカバーすることができます。現在、JAXAの中でも「だいち2号」が最も忙しい衛星の1つです。より多くの観測を行い、特に災害対応に貢献するためにも「だいち3号」、「だいち4号」の2機は重要な衛星と考えています。
ヨーロッパ(ESA)との協力を進めているのがEarth CAREです。JAXAはこの衛星の主センサのひとつである雲プロファイリングレーダ(CPR)の開発を進めています。このレーダは鉛直方向に雲の3次元的な観測を行います。これによって地球環境の高精度なリアルタイム観測を実現します。ESAと緊密に協力している代表的なプロジェクトです。
4つ目が温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)です。GOSAT-1,2に続くシリーズ衛星ですが、温室効果ガス観測センサだけではなく、水循環の観測に用いる高性能マイクロ波放射計3(AMSR3)も搭載します。1つの衛星で温室効果ガスと水循環という2つのミッションへの貢献を実現する開発を進めています。
ここまで、JAXAの地球観測について、様々な観点からお話をさせていただきました。

JAXAの様々な活動

まずは、小惑星探査機「はやぶさ2」についてご紹介します。「はやぶさ2」は2014年に打ち上げられ、2018年に小惑星リュウグウに到着しました。リュウグウではローバの分離投下、探査機本体による小惑星表面への2回のタッチダウン、人工的なクレーターの生成やサンプル回収などを行いました。2020年12月に地球に戻り、採取したサンプルを搭載したカプセルの回収に成功しています。一方、探査機本体は地球に再突入せず、また次の小惑星の探査に向かっています。今後は数年かけて2つの小惑星を目指し、観測を続ける予定となっています。
「はやぶさ2」は9つの世界初を成し遂げました。C型小惑星サンプルの採取(当初目標0.1gの50倍以上である約5.4g)、天体着陸精度60㎝の実現、人工クレーターの作成とその過程の詳細観測などです。このように多くの世界初を実現し、天体からのサンプルリターン技術の確立において日本が世界をリードすることができたと考えています。
「はやぶさ2」が採取した小惑星リュウグウのサンプルの利用ですが、約60%は将来のために保管しています。これは世界中の科学者が、NASAのアポロ計画の月のサンプルを50年以上経った今でも分析し続けている事と共通しています。将来の分析技術の発達を見据え、新たな発見に繋げるために保管しています。残りの40%は国内の科学者や協定に基づいたNASAの科学者への配布、国際公募による世界中の科学者への配布と分析というプロセスを続けています。

次が国際宇宙ステーション(ISS)に関連するご紹介です。
日本が、設計から製造を行った実験棟「きぼう」が国際宇宙ステーションにあります。「きぼう」は運用開始より10年程度経過し、これまでに非常に多くの科学的、医学的、材料の実験を行ってきました。また、有人の滞在技術について、宇宙飛行士の活動や成果を最大限に引き出す観点など多くの成果が得られています。
宇宙飛行士の活動では、2020年に野口宇宙飛行士がアメリカの商業宇宙船Crew-1へNASAの宇宙飛行士と共に搭乗し、2021年の5月に帰還しました。星出宇宙飛行士も同様に2021年4月打上げのCrew-2へ搭乗し、2021年11月に帰還いたしました。両名とも宇宙飛行のベテランとして船外活動等、マルチな活躍をしました。また、星出宇宙飛行士は若田宇宙飛行士に続いて2回目のISSの船長(コマンダー)としても活躍をしました。今後は搭乗5回目となるベテランの若田宇宙飛行士や古川宇宙飛行士がISS長期滞在を予定し、現在訓練を行っています。今後も日本人宇宙飛行士の活躍にご期待ください。

最近の大きな動向としては、まず国際宇宙探査アルテミス計画があります。
2019年に日本政府はアルテミス計画に参画すると決定しました。その後文部科学省とNASAの間で協定を締結し、更に、国際宇宙探査におけるルールを明確化したアルテミス合意に署名しました。これは、透明性など、参加のための基本的なルールについて定めたもので、現在では14か国が署名しています。
我が国ではアルテミス計画における今後10年を見据えた最終的な計画として、月を周回する有人拠点であるゲートウェイへの貢献、月面での探査を継続的に行う為のローバの開発などを目指しています。この前段階では、インドと共同開発している月極域探査計画(LUPEX)による、月の水資源有無やその規模について調査をする予定です。更にその前段階として、月面に高精度で着陸する技術を実証する小型月着陸実証機(SLIM)計画が予定されています。
また、月の更に先を目指すものとして、火星衛星探査計画(MMX)があります。これは国際宇宙探査の一環であると同時に、「はやぶさ」「はやぶさ2」の技術を応用した野心的なミッションとして火星の衛星フォボスのサンプルリターンを予定しています。
このアルテミス計画は、継続的に月面或いは月近郊の領域を探査するサスティナブルな探査であるという点がアポロ計画と大きく異なります。アポロ計画は宇宙飛行士による数時間の探査でしたが、それでは継続的な探査ができません。長期間にわたる継続的に探査するためのシステムを確立する必要があります。より快適に長期間活動するため、探査ローバ等が必要とされたことが開発計画の背景にあります。

次に、宇宙飛行士候補者の募集です。2021年の12月から2022年3月まで行っています。
今回から学歴や職種などの条件を撤廃し、できるだけ多くの方に応募いただけるように門戸を広げました。女性の方にも積極的に応募していただけると非常に嬉しいです。もちろん、宇宙飛行士に求められる能力が従来と大きく変わることではありませんが、条件を課したことで優秀な人材が応募できないということを排除したいと考え、今回の条件設定となりました。

そして新型基幹ロケット「H3」についてです。2022年1月21日の記者会見の通り、残念ながら2021年度の打ち上げは見合わせとなりました。
多くの方にご心配をおかけしており申し訳ありません。これからH3の開発状況に関する動画をご覧いただきますが、地上燃焼試験、ブースタやフェアリングの分離試験など様々な試験を行っています。ロケットは種子島へ輸送し、組み上げ、カウントダウンまでのリハーサルを2021年に実施しています。

その他のJAXAの取組として、産業振興の観点から航空技術の開発にも力を注いでいます。キーワードは「環境」と「安全性」の2つです。超音速飛行による騒音の軽減や経済性や環境の面を考慮した電動化などの国内外の様々な企業・機関と連携しながら開発を続けています。

挑戦し続ける組織

JAXAは、常に未来を見据え、これからも「挑戦し続ける組織」として、新たな価値の創出や社会を先導する研究開発にチャレンジしていきます。 本日はJAXAが取り組んでいることを様々な観点でお話ししました。本日はありがとうございました。