湿地マッピング
衛星データと機械学習を用いた湿地分布データセットの作成
昨今、生物多様性や防災、炭素吸収源などの観点から湿地が注目されており、特に地域の生態系保全や災害対策において、湿地の定期的なモニタリングは必要不可欠です。しかし、定期的に行われている環境省の調査等においても、基本的に人が実際に現地へ行かなければならないため、時間的にも金銭的にも負担が高いのが現状です。
そこでRESTECでは、より安価かつ頻度の高い湿地モニタリングの実現を目指し、低コスト・高更新頻度の湿地分布データセットの作成に向けて研究・開発を行いました。
広範囲を定期的に観測することが可能な衛星データの活用は低コスト・高更新頻度の湿地分布データセット作成において有用であると考えられますが、既存のデータセットには以下のような課題が挙げられます。
・ポイントデータ(特定の地点で観測した値を位置情報とともに記録したデータ)だと空間的広がりが把握しづらい
・ポリゴンデータ(地域単位で集計・分類された情報を、エリアの形(地図上の面)で表したデータ)だと対象領域に他の土地被覆が含まれている可能性がある
これらの課題を解決し衛星データと親和性の高いデータセットにするべく、本研究ではまず衛星データから判断可能な特徴に着目して湿地の定義(7カテゴリ)を定めました。
定義に基づき、衛星データおよび機械学習を用いて湿地の抽出および分類を試みた結果を、以下に示します。
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分類結果(全体) -
分類結果(渡良瀬遊水地)
過去に湿原単位などの小規模な範囲で湿地の分類を行った研究はあったものの、日本域において、衛星データを使用し広範囲にわたって湿地の分類を試みたのは本研究が初めてでした。
本研究の成果は、環境省等の官公庁や研究者に基礎データとして利用していただくほか、Eco-DRR*1などの湿地機能評価に貢献することを目指しております。また、湿地を時系列でマッピングすることによって、湿地面積の変化をモニタリングし、保全方法の評価が可能となることも期待されます。
*1 Ecosystem-based Disaster Risk Reduction / 持続可能な地域づくりのための生態系を活用した防災・減災
なお、本内容は第16回日本湿地学会熊本大会にて学会発表奨励賞を受賞しました。
1) 佐竹崚, 平出尚義 多時期衛星データを用いた機械学習による湿地のサブクラス分類, 日本湿地学会第16回熊本大会要旨集, 2024, p42