宇宙ビジネスの機会と課題

2024年07月09日
  • RESTEC月例講演会
    講演:永崎 将利 氏
    (Space BD株式会社 代表取締役社長)

    RESTECでは社内勉強会として毎月1回様々な分野の方にご講演をいただいています。
    「活気と挑戦に満ちた、希望ある豊かな社会づくりに貢献する」をキーワードに、宇宙の一大産業づくりに取り組んでおられるSpace BD㈱ 代表取締役社長の永崎様に、2023年11月にご講演頂いた内容をご紹介します。

はじめに

本日は、私なりに今感じていること、何故Space BDを作ったのか等のストーリーも織り交ぜながらお話をしていきます。まず事業紹介を行い、その後宇宙ビジネスの機会と課題について自身が考えていることをお話します。

Space BDとは

Space BDの社名は、「SpaceBusiness Developmentをする」という意味です。
私自身、宇宙業界のバックグラウンドがある人間ではなく、元々は文系で教育学部を卒業し、総合商社(三井物産)で鉄板の貿易と鉄板を作るための鉄鉱石資源の開発に11年間携わりました。ある意味、商社業の両極端を知ることができ、非常に恵まれた11年間でした。その後「自分で意思決定をする人生を歩みたい」と思う出来事がいくつかあり、独立に至りました。
当初、教育事業を手がけていた中で『活気と挑戦に満ちた、希望ある心豊かな社会づくりに貢献する』という自分自身のテーマが生まれ、30歳を過ぎると、ふつふつと「このテーマが自分の使命なのではないか」という思いが湧き出てくるようになりました。何か挑戦をしている人が頑張ったら、明日はもっといい一日が来るような社会、あるいは人の挑戦について足を引っ張ったり揶揄したりするのではなく、応援するような社会にできたら良いなと思い、独立を決意しました。
教育事業は、受験戦争に入る手前の中学生を対象に、今で言う「アントレプレナーシップ」や「起業家人材の育成」等、キーワードで語られるような文脈で『経済って何だろうか?』『人生にとってお金とは何か?』『仕事って何だろうか?』といったテーマで細々とワークショップを開催しました。
そのように活動する中、私にとって恩人と言える人と出会い、『社会を揺り動かそうとするなら、人にやれと言うのではなく、あなた自身がやって見せるのが、よっぽど手っ取り早くインパクトを与えられる』とアドバイスをいただきました。
また、ある投資家の方からは『今の宇宙業界は技術者中心。もし宇宙業界にBusiness Developmentを実現できる商社マンがいたら、この業界は大きく動くかもしれない』と言われました。このアイデアへ、自分でも取り組んでみたいという思いで設立したのがSpace BDです。

宇宙を商業ベースで一つの産業と捉えた時、現在は一つの黎明期かもしれませんし、あるいは既に一大産業であり国としての宇宙の利用価値は十二分に認められているといえるかもしれません。
「一大産業づくり」とは、例えば自動車産業や鉄鋼業のように、裾野が広くコマーシャルな商業ベースの産業になることです。それを叶えることができれば、私の夢にも近づくのではないかということを前提にお話ししました。
一大産業づくりのためには、やらなければならないことが山のようにあります。

図1の赤いラインには「衛星・輸送系サプライチェーンへの貢献」と記しております。
事業を始めた約6年前は、更にいろいろな人が宇宙産業へ参入しなければならないという課題感がありました。宇宙ビジネスは、まず宇宙に「モノ」を打ち上げるところからスタートします。その宇宙へのアクセスが、早く・安く・簡単になれば、今まで宇宙を使ってこなかった人々が数多く参入し、多様なビジネスモデルが生まれるのではないかと考えました。

  • 図1 Space BDの事業領域
  • 図2 衛星打ち上げサービス概要

衛星打ち上げサービス(図1の①)とは、地上で例えると宅配便事業に近いと考えてます。宅配便事業は、顧客の荷物を届けます。その手段として飛行機、トラックや船が使用されますが、必ずしも宅配便事業者がそのトラックや船を作っている訳ではありません。また顧客は、必要な荷物を届けてくれれば、どの手段を使おうが不問です。
宇宙の場合、これらの輸送機がロケットに変わり、「荷物」は人工衛星や様々な部品、研究で用いられるサンプル等です。「宇宙空間にモノを運ぶ」ことのハードルを下げることが、我々の基幹事業の一つです。
本事業は、中々アイデア勝負で済まないとこもあると考えます。顧客やマーケットの声を聞きつつ、それにより利益が出せるかの観点ではなく、少しでも困りごとがあれば丁寧に対応していくべきだと考えます。私たちのお客様とは、衛星を作って打ち上げたい方々です。その方々の困りごとを一つずつ解決していこうとすると、まずは衛星を作るための部品調達(図1の②)が必要です。これらの半分以上は輸入品です。そこで、我々がそれら部品の輸入を代行することで、お客様であるエンジニアは衛星開発に特化することができます。このような背景を元に「部品調達」ビジネスを立ち上げました。

また、九州工業大学とは包括提携協力協定を結んでおり、試験設備の取り扱いという「手間」を引き取る形のビジネスも行ってます(図1の③)。また最近では、衛星システムインテグレーション(図1の④)という非常に技術的なプロジェクトにも携わっています。顧客の目的はあくまで衛星ミッションを遂行し必要なデータを取ることなので、必ずしもバスシステムを作りたい、あるいは衛星打ち上げに時間をかけられる訳でもありません。具体的な事例を挙げると、現在総務省主導の下開発中の月周回衛星“TSUKIMI”プロジェクトのサポートをしてます。総務省の傘下であるNICT(国立研究開発法人 情報通信研究機構)をリーダーとして、テラヘルツ電磁波を使った月表面の水資源を探査するためのセンサの作製を進めています。そのセンサ仕様を一番安く・小さく・性能を発揮することが可能なバス部分を我々が設計し、パートナー会社に製造依頼するビジネスも行ってます。
 
他方、本日のテーマのひとつは「鶏と卵」です。図1の青い部分に「ユーザー拡大・需要創出」と示してます。宇宙産業が一大産業を目指す根本的な課題として、民間への浸透不足があると思われます。お金を使い宇宙を利用するのはまだまだ国が中心であり、民間からは中々参入できていません。今後、民間企業あるいはBtoCとして個人が宇宙を利用することを考えますと、それらのユーザーに対して、新しく宇宙を利用してもらうための努力が必要です。
昨今、メディア等で宇宙の露出が増加傾向であるため、恐らく認知は進んでいると思われます。しかし、自分たちの日常生活や仕事に宇宙と関わりがあるかの認識は、まだまだ遠いと感じてます。地道に事例を積み上げ、周知していくことが必要です。
事例分野は多岐に渡ります。例えばライフサイエンス分野では、ISS(国際宇宙ステーション)の微小重力環境を使うことで、創薬がブレイクスルーを起こす可能性があります。また、企業のブランディングやマーケティングの面では、吉本興業と組んでみるなどいろいろと挑戦をしています。自身のバックグラウンドでもある教育事業は、どのパイプライン・バリューチェーンを通っても、教育系のパッケージにすることはできます。

スタートアップ / ベンチャー企業の一つの鉄則は「選択と集中」、つまり限られたお金を投資家から預かり一点突破をするということです。Space BDは立ち上がりからこのセオリーに反したと申しますか、いきなり「多様化」で進めています。ここが私の一つの腹くくりでもありますし、Space BDのユニークなところだと感じております。

これまでの主な実績

設立から約6年で多様なビジネスを進められるようになった要因の一つとして、JAXAとのパートナーシップは欠かせません。JAXAが、地球から月あるいは火星の探査に移行していく中で『技術的にある程度成熟したところは民間に任せる』という主旨の公募が行われました。従来JAXAが担当していた開発や運用を「利用権」という形で民間に移転するというイニシアティブが、2018年から立ち上がりました。

  • 最初のイニシアティブであるISS日本実験棟(きぼう)からの衛星放出は、我々Space BDと三井物産エアロスペースの二社に利用権が移転しました。それ以降、きぼうの船外利用(2019年)、H3ロケットの空き枠の独占的取り扱い権(2019年)、ISS補給船(HTV-X1)からの衛星放出権(2020年)、さらには微小重力空間を使ってタンパク質の結晶を生成する権利(2021年)と、次々と公募が出ました。
    これら5件の中、1件目以外は全て我々Space BDが独占権を取得し、JAXAの商業利用のパートナーという形になりました。我々が国産の資産を担いでグローバルに打って出ることで、お客様との実際の取引が始まります。その中でお客様から「ISSからの衛星放出は軌道が特殊すぎて困る」「やはり頻度が必要」という声が寄せられました。そのため、現在は海外ロケットも取り扱いながら、グローバルに事業展開してます。
  • 図3 衛星打上げ・ISS利用に関するJAXA公募実績

超小型衛星にフォーカスした宇宙輸送手段(図4)をご覧ください。Space BDのロゴは、我々が実績あるいは契約を持っているところを示してます。ここから、Space BDが包括的に全ての手段を取り扱っていることが、お分かりいただけるかと思います。

  • 図4 超小型衛星の宇宙輸送手段と実績
  • 図5 ISS利用および衛星打ち上げサービス実績

ISS利用および衛星打ち上げサービス実績(図5)をご紹介します。
ISSでの超小型衛星放出事業では、50機の衛星に関わりました。ロケット相乗りでは25件の実績があります。Falcon 9を2回、イプシロン「革新」3・4号機のインテグレーションを請け負いました。また今後H3ロケットのReturn to Frightがありますが、その相乗り衛星についても我々がインテグレーションをさせていただいてます。衛星外の曝露実験では4機、SONYや国外の顧客(アメリカ・スペイン)等がいます。ISS船内でのタンパク質結晶化実験サービスも件数が増え、コツコツと事業を広げてます。
エンジニアとしてのバックグラウンドを持たない自分がスタートした会社ということもあり、当初は“仲介事業者”と言われるようなケースが多かったと記憶しています。しかし、十分な技術者を抱えた今では『技術力に立脚した事業開発力』を持てたと、胸を張って言えるようになりました。それは、これまでの実績や、案件を実現可能とするチームが社内にいることが大きいと考えいます。したがって、我々の売りとはであり『Space BDに集まった人たちの競争力』を重視しています。

Space BDのロゴ(図6)には、赤い丸の中に漢字の「人」が三つあります。これは「人」がロケットの様に上にも伸びていくことを表現しています。 メンバーも様々で、役職定年を超えた方々や、若手のエンジニア等、そこに一生懸命食らいついていく形で、非常に良いバランスを生み出しています。結果として、多様性のある会社になってきたのかなと自負しております。

図6 Space BD ロゴマーク

教育・地域連携事業

教育事業にも、少しだけ触れます。教育は、ボランティアやCSR活動ではなく、事業として取り組んでます。元々、私にとっての「起業家精神」として『人生を主体的に生きる人』という定義があります。勿論全員が起業する必要はありませんが、自分で物事を考えて主体的に生きていくことが大事であるという考えに基づきます。
宇宙と教育を結びつけますと、まさに「コネクティング・ザ・ドッツ」で、非常に相性が良いと考えています。何故かというと、宇宙を取り扱う時は、未知で前例がないところへ、自分で考えて挑戦しなければならないからです。これは、教育現場に対して、非常に良い影響をもたらすと私は確信しております。また宇宙のビジネスでは、必ず「グローバル」が前提に入ってくるので、そういう意味でも良いと考えられます。

いくつか事例を紹介します。まず学習院大学との取り組みです。学習院大学は文理融合で、文系の学生と理系の学生が同じキャンパスで学びます。そこで文理融合のカリキュラムを作りたいという声が挙がりました。そこで、次世代人材の育成といった面で「宇宙」を使うのが良いのではという話になり、理学部と法学部の教授がタッグを組み、そこにSpace BDが入り年間カリキュラムを作りました。今期においては一般教養科目になり、より様々な学生が宇宙に触れてくれる機会になりました。
高校生を対象にした事例では、クラーク記念国際高校と、花巻北高校で実施したプログラムがあります。このプログラムでは衛星を作って打ち上げるだけではなく、その衛星の名前を考えるところ、さらには衛星のミッションまで、生徒達に考えてもらいます。最終的には、大人のスタートアップ企業顔負けの大きなステージ(総合体育館)でプレゼンをするといった仕立てまで含めて、一つの教育パッケージになりました。
また、九州工業大学とは包括協力協定を結んでおります。九州工業大学は、大学単体として打ち上げた衛星の機数が現在世界一で、50kg以下の超小型衛星のための試験設備が最も包括的に揃っています。そこをビジネスにどう繋げるかということ、さらに一緒に教育をやっていくという包括協力協定に基づき、原資となる文部科学省の公募を一緒に獲得して、地元の高校生・高専生向けの5日間のプログラムを行いました。こうして「宇宙・衛星開発アントレプレナーシッププログラム」と銘打ち、初日は自身も参加し、ビジネスのリアルや起業家とは何かという講演を行いました。

また自治体の話もしますと、現在、都道府県レベルで『宇宙を使って地域振興をしたい』という声が出てきています。勿論自治体により課題認識は異なり、例えば「もの作り」を何とかしたいところもあれば、どのような形でも良いので宇宙を起点に新産業を興したいというところもありますし、宇宙に関することをやりたいが何から手をつけて良いのか分からないところもあり、フェーズは様々です。
その中で、偶然にも私の出身地である北九州市は、市長が宇宙方面に積極的な方だったこともあり、市長とのディスカッションを重ねました。最終的に、ロードマップの策定から「なぜ宇宙に意味があるのか」という文脈で機運の盛り上げを担っていく事業者として、選定されました。

  • 我々は、「ハブ」もしくは「黒子」として、業界における潤滑油や接着剤としての機能を果たしていきたいと考えています。

    図7左の『宇宙を繋ぐ(産業内の潤滑油)』では、宇宙業界の中での足りない機能等を埋めていきたいと思います。衛星を打ち上げることはロケットがあれば何とかなりそうだとも思えますが、実はそんなことはありません。例えば小型衛星の場合、一つのロケットに複数の衛星が乗ります。そうすると、インターフェイスプレートや分離機構、あるいはアダプターなどがあり、またその為の線表が沢山走ります。また、地上での試験、地上の輸送、日本あるいは第三国からアメリカに輸送する場合も、ボトルネックとなりうる要素はあります。そういったものを我々が「潤滑油」として、ワンストップで支えております。
  • 図7 Space BDの立ち位置

図7右の『宇宙と繋ぐ(産業外との接続)』には、宇宙業界には新しいプレイヤー・新しい使い方にどんどん参入して欲しい、パイを大きくしたいという思いがあります。「宇宙のユーザー」が「宇宙のプロ」でなければならないことが、非常に大きなハードルになると考えております。技術的プロではないユーザーにやりたいことがあり、且つそれを実現するための予算がある場合、技術的な手間は我々が引き取る、といったビジネスの取り組みもあります。
右の宇宙飛行士の訓練服を着た11人の方々の写真は、JO1という吉本興業がマネジメントをしているグローバルボーイズグループです。2年連続で紅白歌合戦へ出場するなど勢いがある彼らとタッグを組み、歌詞やCDジャケットへ宇宙をモチーフに入れた「スペースデリバリープロジェクト」というキャンペーンを行いました。すると、10~20代ぐらいの女性が中心のJO1ファンクラブ人たちが「宇宙に初めて触れた」と大いに盛り上がってくれました。何か利益につながるのかという点は、まだ長い目で見る必要がありますが、今まで宇宙に興味・関心がなかった人にアクセス・リーチして何が起きるのかということも大事だろうと考え事業展開しています。我々のキーワードである「人をつなぐ」ということだと考えています。
ここまでがSpace BDの事業概要です。

宇宙ビジネスの機会と課題

宇宙産業は黎明期であり、いわゆる「鶏と卵」だらけの状態です。私が会社をスタートさせた頃の「では、鶏の卵とは?」という話をご紹介します。
ホワイトハウスで宇宙政策に携わっていた方と、その後にトランプ政権下で宇宙政策のトップを務めていた方が、2017年4月頃に来日し講演を行いました。ある方は「小型衛星の世界がくる、超小型衛星がどんどん打ち上がっていろんなビジネスが花開いていく」と講演し、もう一方の方は「衛星データが価値を生む世界にならない限りは、衛星を打ち上げても出口がなく、小型衛星の世界は来ない。」と講演しました。権威ある方々が異なる見解を持つ宇宙産業を面白いと感じSpace BDというコンセプトに踏み切ることを決めたきっかけの一つとなりました。そしてその問いには、まだ答えが出ていません。
それから「宇宙って儲かるの?」「やってみないと分からない」という話もよく議論になります。パイを一緒に大きくしていこうと言うは易しですが、そのパイがなかなかないために、目の前の物を抱え込むしかないというところもまだあるように感じます。これは日本に限らず、最近オーストラリアの関係者とも同じような話をしています。「鶏と卵どちらから行くのか?」というところがまだまだ多いわけです。
そんな中、自身が考えていることが四つあります

  • 宇宙ビジネスの魅力とは何か
    これは一言で言うと無限の可能性です。どこまでも大きく成長する可能性を感じています。他方で、予見性が低いという一つの現実もあります。これは、事業会社が参入へ踏み切るうえで大きなハードルとなっています。では、私自身はどのようなロジックで前へ進んでいるのでしょうか。
    これは、インターネットの黎明期に非常に似ていると考えています。ドットコムバブルで皆が殺到し株価も上昇しましたが、その後ビジネスには関係ないかもしれないと一斉に引いていきました。ところが今ではインターネットとは、儲かる儲からないどころか人類の一大プラットフォームとなり、その上で様々なアプリケーションがビジネスを行っています。では、インターネットで勝った人つまりプラットフォーム側にいる人は誰でしょうか。GoogleやAmazon等です。彼らは、よい時も悪い時もずっとインターネットの最前線にいて、仮説を少しずつ変えながらビジネスを行っているわけです。
    例えばGoogleはスタンフォード大の学生達が始めた検索エンジンでしたが、そこへ情報が集まることに気づき、今ではプラットフォームとして運営しています。Amazonは本屋のECサイト化に始まりおもちゃのECサイトを経て、現在はAWSまでやっています。当然、彼らは現在のビジネスを当初から考えているわけではなく、実際にインサイダーとして取り組んで改善を繰り返した営みの結果であり、決してアイデア勝負や思い付きで興したものではないと私は思っています。
    今日本で暮らす我々がインターネットの世界でプラットフォーマーになれるか?というのは非常に厳しい問いだと考えています。しかし、宇宙の世界はまだ決着がついていません。日本発の宇宙産業プラットフォーマーになるとはどういうことかを、ある種広義にとらえてチャレンジしています。
  • 宇宙は本当に時間とコストがかかる
    衛星打ち上げを例にすると、どれほど早くても契約後1年以上はかかります。業務サイクルの中で見えるものを次のサイクルへ生かそうとすると、1サイクル2年みておかないといけません。例えばITベンチャーなら、6年間の事業で何周もトライアンドエラーを回せますが、宇宙の場合は3周です。そのようなことからも、とにかく早く取り組んだ方がいいと考えます。また、宇宙はリソースも限られパイが小さいことから、やはり実績がある人へ集中するわけです。なので、最初の雪だるまを作った人がどんどん先行者として大きく育てていくのだろうと思っています。一つ目で申し上げたとおり、実践者じゃないと見えないものがあると信じて、今後もやり続けていこうと考えています。
  • 宇宙を広義で捉え、短期と中長期の両輪で展開することが重要
    宇宙はよく、衛星だ、ロケットだ。そしてデータであるというふうに捉えられます。もちろんこれは一つの王道ですが、もっと広義で捉えていく必要もあるのではないかと思います。そういったある種軽やかと言いますか、新しい使い方が一つの発明であるべきで、その中からチャンスを見いだしていきたいと思っています。
    我々は投資家からお金を預かりながら事業を進めています。現在、日本で4社、シンガポールの政府系1社からの投資があります。短期間で現実的にチームがしっかりと強くなり、売上げが伸びています。創業以来毎年増収という実績を残す中、投資家は安心してお金を預けてくれますが、「宇宙をやる以上大きな夢を見せて欲しいよね」という気持ちも当然あるわけです。その夢と現実のバランス・ハイブリットというのが私自身の腕の見せ所だろうと思っています。
    もうひとつ大切にしているのは、需要が希少価値だということです。今ある統計では、日本の宇宙産業は官需が92%と言われてるそうです。今、日本政府の宇宙政策は非常にドライブがかかっているので、ひょっとするとその比率はもっと大きく、92%どころか95%になるかもしれないと思っています。宇宙が一つのトレンドとなる中どこで何をするかというときに、官需をドライバーにしながら民需を拡大していくことが一つ大事なアプローチだろうと考え、冒頭申し上げたようないろんな宇宙の使い方を試し、様々な種を蒔く、ということを我々はやっています。
  • コラボレーションが大事
    我々がまだ手薄な分野である衛星データのプロフェッショナルであるRESTECとのこのような場も、非常にありがたいと感謝しています。
    それぞれが見てる領域、様々なケースがあり、多くのコミュニケーションがあり、というところを共有できれば非常に大きなシナジーを生むことになると思います。また逆に言うと重複努力を避けるという意味において非常に大事なのではないかと思っております。情報共有し、シナジーを発揮していくということ、それは企業間組織の間を超えていくわけですから、信頼関係が非常に重要になります。人と人との繋がりという非常に原始的な表現ですが、今の宇宙産業の黎明期で何かブレイクスルーを起こすときに、そういったところが非常に重要なテーマではないかと思えてならないわけです。

少し駆け足でしたが、講演の最後に私達の組織をご覧ください。いろんなジェネレーションいろんなジェンダーがあることを見ていただけるかなと思っています。

図8 Space BD社員一同

余談でお話させてもらいますと、世の中で多様性についていろいろ言われていますが、私自身はそれを目的化する必要はなく、手段というか結果として出てくるものでよいと思っています。
文系的な人間が会社をスタートして思うのは、この業界での技術がないとそもそもコミュニティに参入できないし、自身は物を売る営業マンとしてはそこそこ自負があったのですが全く売れない。これは何かというと、やはりロケット側も衛星側もエンジニアの方が意思決定者にいるわけです。そうすると、付け焼刃で表面的なお話しをしても信頼を勝ち取ることができないので、資金調達でエンジニアを早めに内製化することになります。その結果、社のエンジニア比率が高まっていきます。やはり、技術というのは一日の長が非常に大きく出るところだと思っています。なので、エスタブリッシュの世界で技術を培ってくださった方に来ていただき、チャレンジを継続する。そこへ若手のエンジニアがペアになり一緒に動いていくということをやっています。また、ビジネスとエンジニアがペアでビジネスをやっている中で多様性のあるチームになってきたと思いますし、これからもそのような組織にしていきたいと思ってる次第です。

本日の私の話はここで終わりにしたいと思います。ご清聴いただきましてありがとうございます。