衛星からみるアマゾン川流域の干ばつ - ピンクカワイルカの大量死 -
2023年10月24日
人工衛星による内水の観測
このアマゾン川の干ばつと水温の上昇は衛星からどう見えるのでしょうか。
図1は、アメリカのPlanet衛星がとらえた、カワイルカの大量死が起こったテフェ湖周辺の9月に撮影された光学画像です。過去2年の同じ月と比べ、2023年は水位が下がり、湖底の土色が見えています。
図2は、全球降水観測(GPM)計画の下、GPM主衛星に搭載された二周波降水レーダ(DPR)を中心に、複数の降水を観測する衛星や静止気象衛星を組み合わせて開発された衛星全球降水マップ(GSMaP)の、テフェ湖周辺の干ばつ指数の分布です。負の値ほど干ばつ傾向が強く、2023年はテフェ湖周辺で例外的な干ばつとなっているのが分かります。
図3は、GCOM-C「しきさい」搭載の多波長光学放射計SGLIが観測した海面水温の気候値からの偏差です。アマゾン川のような川幅の広い河川は衛星から水温も確認することができます。報道の通り、2023年9月は水温が例年より高くなっていることが分かります。
図4は図2と同様にSGLIが観測したテフェ湖周辺の1か月平均水温の偏差の時系列です。アマゾン川流域は11月~4月が雨季で河川に流入する水量が多いため水温が下がり、乾季には水量が減り水温が上がります。過去2年間と比較し、2023年は水温が5月頃から高い水準で、干ばつの影響を受けたと考えられます。
干ばつの河川周辺の植物への影響
干ばつにより水生動物は大きな被害を受けましたが、記録的な干ばつはテフェ湖周辺の植物にはどのような影響をもたらしているのでしょうか。図5はSGLIの観測から算出されたテフェ湖周辺の植生指数(NDVI)とその平年値からの偏差の分布です。この図からは、テフェ湖周辺の植生指数は上昇し、植物が増えていることが分かります(図6の年変化も参照)。日本のような温帯で生活していると、干ばつというと直感的に植物が枯れてしまうイメージが湧くのではと思いますが、アマゾンのような熱帯雨林では植物は水よりも太陽光に応答して活性化し、雨の少ない乾季に活性化するサイクルを持つため(光制限)*2、今回の干ばつの際も植生指数は下がらなかったと推察されます。*2 アマゾン熱帯雨林の季節変化検出に関する独自アルゴリズム開発(千葉大学プレスリリース)
干ばつはカワイルカや魚類だけでなく、人間の生活にも大きく影響を与えています。テフェ湖の湖岸の町テフェは、約6万人が生活するアマゾン一の都市であるマナウスに次ぐアマゾネス州の州都でありますが、周囲のアマゾン川流域の都市と同様、道路での往来ができず、航空機か船舶で訪れるしかありません。今回の干ばつで、船で数10分の距離の移動に数時間かかる地域も出ており、物資の流通に支援が必要な状態となっています。
今回のアマゾン川流域で記録的な干ばつが発生した原因にはエルニーニョ現象*3があると考えられています(エルニーニョ時、中米~南米北部では少雨傾向とされる)。今後は気候変動の影響も加わり、世界一の流域面積を誇るアマゾン川でも、カワイルカを見かけることがより難しくなってしまうかもしれません。
地球環境は、GCOM-Cなどの地球観測衛星によってモニタリング*4されています。そうして得たデータは気候変動の解明にも役立てられています。
*3 エルニーニョ現象とは
*4 衛星でのモニタリング「El Nino Watch(エルニーニョウオッチ)」
地球環境は、GCOM-Cなどの地球観測衛星によってモニタリング*4されています。そうして得たデータは気候変動の解明にも役立てられています。
*3 エルニーニョ現象とは
*4 衛星でのモニタリング「El Nino Watch(エルニーニョウオッチ)」