もうすぐ夏休み「課題図書×衛星画像」  課題図書『中村哲物語:大地をうるおし平和につくした医師』から

2023年07月24日

もうすぐ夏休みですね。
今年の青少年読書感想文全国コンクール(第69回)の小学校・高学年の部の課題図書の一つが「中村哲物語:大地をうるおし平和につくした医師」です。故中村哲先生はアフガニスタンで医療活動をしていた医師です。貧困や飢饉、病気に苦しむ人々を救うには水が必要だと考え、用水路を建設するなどの灌漑事業にも貢献されました。
アフガニスタン東部の町、ジャララバードの北にあるガンベリ砂漠が舞台。灌漑事業によって大地がうるおい、植生豊かな土地に変化する様子を衛星画像は捉えていました。中村先生のもう一つの物語を、また、中村先生の意志を受け継いで今も用水路建設に励んでいる現地の人々の努力の証を、衛星画像で見てみましょう。

  • 【2000年9月9日】
    画像の右中央部から東に広がる青白い箇所が「ガンベリ砂漠」です。また、画像の左から中央下に蛇行して見える紺色の筋が「クナール川」です。クナール川の周辺に広がる赤い箇所は植生です。クナール川周辺には植生が広がっていますが、ガンベリ砂漠には植生がほぼないことがわかります。
  • 【2010年9月12日】
    2010年の夏、アフガニスタン・パキスタンは百年に一度の大洪水に見舞われました。クナール川にはその影響がまだ残っており、2000年の衛星画像と比べると川幅が広く見えています。一方、ガンベリ砂漠側は2000年の衛星画像と比べると赤色の箇所が増えており、灌漑により植生域が徐々に増えてきている様子がわかります。
  • 【2014年9月7日】
    ガンベリ砂漠(画像中央部)に赤色箇所が大きく広がりました。大地がうるおい、植生域が一気に拡大した証拠です。南北に延びる防砂林も確認できます。たった4年間でこれだけ変化するのですね。
  • 【2020年9月7日】
    ガンベリ砂漠に広がった植生域が更に拡大し、密度も濃くなった様子がわかります。
    ガンベリ砂漠に近い植生域の一角にあるガンベリ公園には、この年の1月に中村先生の功績を称えて「ドクターサーブナカムラ記念塔」が建設されました。Googleの地図では「Nakamura Park Jalalabad」と表記されています。
  • 【2022年9月13日】
    2020年の様子とほぼ変わっておらず、植生が定着している様子がわかります。現地では灌漑施設がしっかりと維持され、安定的に作物が収穫できるようになってきたことが想像できます。

ご紹介した衛星画像にもう少し衛星画像を加えて、2000年~2022年の変化の様子をGIFアニメーションにしてみました。大地がうるおい、植生域が広がる様子を動画でご覧ください。
中村先生は、2019年12月4日に現地で車移動中に銃撃にあいお亡くなりになられました。しかしながら、中村先生が残された灌漑施設と、それにより育まれた豊かな大地はこれからも生き続けることでしょう。
 衛星画像はこれからも歴史を記録していきます。

本コラムで利用した衛星画像について

本コラムで利用した衛星画像は、米国NASAの地球観測衛星TERRAに搭載された光学センサASTER(アスター:資源探査用将来型センサ)により取得されたものです。ASTERは経済産業省が開発した地球観測センサで、JERS-1/OPSの後継センサとして開発されたセンサです。可視域から赤外域までを14バンドで観測し、後方視によるステレオ視も可能です。分解能は15m(可視近赤外域)~90m(熱赤外)で、本コラムでは分解能15mの可視近赤外域のデータを利用しました。
画像は産業技術総合研究所地質調査総合センターの衛星データ検索システム(MADAS:METI AIST satellite Data Archive System)から入手し、当財団にて画像可視化、加工・編集を行いました。