地球観測をより身近に活用しやすいものへと変えたアクセルスペースの小型衛星 「GRUS-1」とは?

2023年08月07日

RESTECは、衛星データを利用したリモートセンシング技術の普及促進のため、1975年の設立以来多くの衛星データの提供を行ってきました。
現在、150基以上の衛星データを取り扱い、幅広い分野で利用いただいていますが、「衛星データを利用する」と言っても、分解能や観測頻度などそれぞれの衛星には特徴があります。利用目的に最適な衛星を選択することが重要です。
今回のコラムでは、近年広く流通しはじめている国内民間企業による衛星データの一例として、RESTECでも取り扱っているGRUS衛星を開発した㈱アクセルスペースに寄稿頂きました。

地球観測をより身近に活用しやすいものへと変えたアクセルスペースの小型衛星「GRUS-1」とは?

近年、衛星の小型化が進んでいます。テレビや携帯電話・スマートフォンが技術進化とともに小型化して普及していったように、衛星もよりコンパクトに使いやすくなってきています。今回のコラムでは早くから小型衛星の製造に取り組んできたアクセルスペースが、2018年と2021年に打ち上げ、現在も運用している地球観測衛星「GRUS-1」についてご紹介します。

進む人工衛星の小型化。小型衛星が増えている理由とは? 

小型化が進んでいると言われても、人工衛星のサイズがどのぐらいのものなのかというのは、なかなかイメージがわきにくいかもしれません。
たとえば、天気予報でもおなじみの気象衛星ひまわりは大型衛星です。
大型衛星は重さ1トン以上、人の背丈よりも大きなものになります。その分、機能や性能にもこだわることができるのが特徴で、衛星のユーザーは主に国や大手企業です。

  • 一方、近年急速に増えている小型衛星は数百㎏程度。大きさも数人で運べるほどのサイズです。以前は機能や性能も限られていましたが、技術の進歩により機能も向上しており、大型衛星に劣らぬ機能を持つようになりました。
    小型衛星は開発期間が比較的短く、製造開発コストも抑えられるのがメリットです。大型衛星の場合、コストは数百億円にものぼり、開発には5~10年かかります。一方、小型衛星は数十億円規模のコストで、2~3年程度で開発・製造が可能です。
    人工衛星自体はもっと小型化することもできます。Cubesatと呼ばれる超小型衛星は手のひらサイズで重さも数㎏程度。学生の教育目的でよく作られてきましたが、技術実証など単独ミッションにも活用されることも増えてきました。ただし、複数のミッションを載せたり、性能の高さを求めたりすると、もう少し衛星のサイズを大きくする必要が出てきます。そのため、小型衛星が注目されているのです。
    また、最近では(衛星)コンステレーションといって、複数の衛星でひとつのシステムを構成し、ミッションを遂行することも増えてきており、手頃なサイズでどんどん打ち上げたいというニーズも増えてきています。

衛星を自社で保有しなくても宇宙をインフラとして活用できる選択肢を生み出した「GRUS-1」

  • 国内には人工衛星を製造する企業が何社かありますが、アクセルスペースでは早くから小型衛星の製造に取り組んできました。政府機関などによる大型衛星が主流となっていたなかで小型衛星に特化した理由は、技術進化が起これば小型衛星も実用的なものにできるという確信と、宇宙を誰もが活用できるインフラにしたいという想いがあったからです。

    アクセルスペースは専用衛星を繰り返し受注するなかで、「人工衛星を保有することは難しいが、人工衛星が撮影した画像やデータは使いたい」という顧客ニーズがあることに気付きました。そこで誕生したのが、アクセルスペースで衛星を保有、運用し、そこから得られるデータを提供するサービス、地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」です。「AxelGlobe」はユーザーが登録した、撮影したい期間や場所のリクエストに応じて撮影を行い、画像や解析データを提供します。2018年の終わりに初号機「GRUS-1A」を打ち上げ、翌年にサービスインしました。

「GRUS-1」に搭載されているのは光学センサーで、植物の生育状況から微妙な海の色合いの違いまで、地上の様子を撮影することができます。見たままを写真に撮っているだけではなく、特定の波長を捉えたデータも取得し、加工処理して仕上げています。

  • 通常の光学衛星画像
  • フォルスカラー画像(植生を赤で強調)

例えば、左と右の画像は同じ場所ですが、右の画像は植生が赤く見えるように加工処理したものです。通常よりも植生の分布が一目で分かりやすくなっていますね。
現在「AxelGlobe」で提供しているデータは、主に農業や防災減災、インフラ、都市計画に活用されています。
「GRUS-1」が撮影した画像を使うと、農業では病害虫が発生している場所の確認や、どこのブロックが生育が遅れていて肥料を追加すればいいかの検討、どのぐらい収穫できそうかといった予測を広範囲かつ客観的に行うことができます。
また、数値や画像で分かりやすく情報が示されれば誰にでも分かりやすく、勘や経験に頼らずとも高度な意思決定ができるようになります。
衛星画像の分析には専門的な知識が必要ですが、専門的な知識を持たない方にも広く衛星データを活用していただくために「AxleGlobe」ではRESTECを始めとする、様々なパートナーと提携しています。現在世界で80社を超えるパートナーが衛星画像を分析し、データをビジネスの意思決定のためにご活用いただいております。世界各地のパートナーのおかげで「GRUS-1」のリモートセンシングデータはさらに多くの方に届けられるようになりました。

「GRUS-1」の性能と特徴。強みは使いこなせること

宇宙から地上を撮影し、そこから情報を取ろうとした時に気になってくるのが、画像の解像度と撮影できる範囲です。
どのぐらい細かく撮れるかというスペックは地上分解能といい、何メートル単位で撮れるかで表します。「GRUS-1」の場合は2.5mです。

  • 羽田空港
  • 羽田空港拡大図:駐機している航空機まで見える

人工衛星は軌道上を移動しながら観測・撮影しているので、データは縦長の帯状になっており、使いたい部分を切り出す形になっています。この細長いデータの横幅を観測幅といい、「GRUS-1」では最大 55kmの幅で撮影が可能です。
一般的なカメラと同じで、撮影範囲はズームすると狭くなり、引きで撮影すると広くなります。例えて言うならば、東京の西から東まですっぽりカバーするくらいの範囲の撮影ができ、飛行機や車の台数がカウントできる程度の解像度のデータを取得することができる、ということです。

衛星にはいくつもの機能がありますが、こうした観測部分の機能を担うミッション機器はサービス品質に関わる重要な部分です。
どんな機器を搭載するかによって、観測の精度や観測できる物の内容が変わってきますが、一度打ち上げてしまったら、カメラや望遠鏡を取り替えることも、取り付け位置を変えることもできません。ですので、運用が始まってからどういうことがしたいのかをよく考えてから設計することが重要となってきます。

  • そうはいっても実際にやってみないと分からないニーズというものもあります。
    アクセルスペースでは「GRUS-1」を製造後、ユーザーやパートナーとのコミュニケーションを通じて、何のために衛星画像やデータを利用しているのか、どういった衛星画像であれば更に役立ててもらえるのか、ニーズやユースケースを具体的に把握することを進めてきています。衛星の開発や製造だけにとどまらず、ユーザーの詳しいニーズを随時把握してきた経験を今後のアクセルスペースの衛星開発に反映し、さらに実用に即した衛星とソリューションの提供を目指していきます。

    2018年に初号機「GRUS-1A」を打ち上げた後、2022年には観測頻度向上のため、さらに追加で「GRUS-1B」、「GRUS-1C」、「GRUS-1D」、「GRUS-1E」の4機を打ち上げました。複数打ち上げたことでトラブルが起きた時に個別の衛星の問題なのか、そうでないのか、より具体的な分析や対応ができるようになり、また運用時のノウハウが蓄積されてきています。
    現在の5機体制では2~3日に一度の頻度で撮影ができますが、今後はさらにコンステレーションを充実させ、毎日撮影できる体制を目指します。

「GRUS-1」の可能性を広げた活用事例。宇宙状況認識サービスとの提携

遠く離れた宇宙から地球を観測するために開発され運用されてきた「GRUS-1」ですが、実は最近、新たな領域で使われはじめています。

「GRUS-1」を打ち上げた時は全く想定もしていなかった用途ですが、世界初の軌道上モニタリングサービスを提供しているHEO Robotics社から「GRUS-1」を活用したいというご相談をいただいたのです。
急速に宇宙ビジネスが成長するなかで、衛星やロケットが通る軌道上は行き来する人工衛星やロケットの数が増えて、混みあっています。衛星を運用する企業などは、衝突による破損などから自社の資産を守るために軌道上のどこにどんなものがあるのかを知る必要があります。
そこで、同社とパートナーシップを結び、「GRUS-1」で軌道を撮影した画像を提供し、軌道上にある物体の把握や評価に活用いただけるようにしました。

また、カナダのNorthStar Earth & Space社でも、同社が提供するSSA(宇宙状況認識・Space Situational Awareness)サービスで、アクセルスペースの「GRUS-1」を活用いただいています。
地球観測のために設計した人工衛星でしたが、「GRUS-1」に搭載されたソフトウェアを書き換えることで宇宙空間の撮影にも対応ができました。

どちらも「GRUS-1」の利用価値は当初の想定以上にあるのかもしれないと思わせてくれた活用事例です。

「GRUS-1」の経験を活かして、より宇宙を身近なものへ

アクセルスペースはこれまでに9機の小型衛星を開発し、全て打ち上げに成功、運用を行ってきました。この実績と、社内に蓄積されたノウハウなどをまとめた新サービス「AxelLiner」を2022年にリリースしました。これは、小型衛星のニーズが急速に高まるなかで、衛星の製造、打ち上げ、運用その他衛星に関わる業務をワンストップで提供するものです。従来はお客様のご要望に合わせてオーダーメイドで衛星プロジェクトを推進してきましたが、衛星プロジェクトに関わる長く複雑なプロセスをパッケージ化し、お客様がより簡単に衛星を活用したビジネスを展開できることを目指しています。「AxelLiner」のワンストップサービスを利用いただければ、お客様は宇宙空間で行いたい観測、通信、実験などのミッションに注力していただくことができます。これにより、宇宙産業の裾野を広げていきたいと考えています。

「GRUS-1」を含む、アクセルスペースのこれまでの衛星プロジェクトノウハウを活かした衛星のワンストップサービスについて知りたい方はアクセルスペースのサイトもぜひご覧ください。

Axelspaceコーポレートサイト
AxelspaceのInstagramアカウント ※衛星画像の一部を公開しています。

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