異常気象を衛星で見る(2022年夏 欧州)

2022年09月28日

気象データは、私たちの暮らしを支えるだけではなく、長期的な気候変動の解明にも役立っています。
その基礎となる観測はアメダスなどの地上観測機器の他、航空機観測、ラジオゾンデ、更には目視など様々な方法で行われています。

人工衛星による観測もその一つです。
人工衛星を利用することで、地上での観測が困難な地域(例えば、砂漠、山岳地帯、海域)も含めた広い範囲のデータを得ることが可能です。
では、猛暑といわれた2022年夏のヨーロッパを中心に、実際の観測結果をご紹介します。

人工衛星による全球地表面温度の観測

左の画像は、JAXAの衛星しきさい(GCOM-C)が観測した全球地表面温度について、2022年7月の平均値と、2018年~2021年の平均値を比較し、差分を表したものです。
過去4年間と比較して、青色は涼しく、赤色は暑かったことを表しています。

気象庁の発表した2022年7月の異常気象発生地域分布図(右図)と比較すると、ヨーロッパ東部〜北アフリカ北西部、中国南東部〜中央アジア南部、米国南部〜メキシコなどの高温、オーストラリア北部の低温など、衛星観測との一致が確認できます。

  • LST 2018年~2021年の平均値と2022年との差分
    衛星が観測した地表面温度:2018年~2021年の平均値と2022年との差分
  • 出典:気象庁「世界の月ごとの異常気象(2022年7月)」
    https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/monthly/monthly_202207.html

欧州の異常気象を衛星で見る

2022年の夏、欧州では記録的な猛暑に見舞われました。
気象庁は2022年7月22日、世界の異常気象速報「ヨーロッパ西部を中心とした顕著な高温について」を発表しています。
また、猛暑の他に顕著な干ばつも同時期に発生しました。その時の様子を、様々な衛星データで確認してみましょう。

2022年7月のヨーロッパにおける降水量

農業や放牧が盛んな欧州では、水が不足すると食糧危機や経済に大きな影響を与えます。そのため干ばつの原因究明や対策が求められています。
陸上の水の多くは、降水から得られたものです。では、この干ばつ発生時、降水量はどれくらい変化があったのでしょうか。

下の図は、JAXAが運営する世界の雨分布図(GSMaP)で算出した2000年~2022年の降水量の平年値と、2022年7月の降水量の平均値です。両図共に、赤色ほど降水量が多いことを示しています。
イングランド北西部の都市、マンチェスターに着目してみましょう。平年値は約約2.5mm/day を示す一方、2022年7月の平均値は約1.0mm/dayであり、平年値より小さくなっています。
同様の傾向はヨーロッパ西部に渡ってみられ、2022年7月は平均より降水量が少ないことが分かります。

GSMaP降水量(2000年~2022年の平年値)
GSMaP降水量(2022年7月)

GSMaP干ばつ指数

干ばつの原因を探求するため、世界中の研究者は衛星データなどの観測値や数値シミュレーションを使って研究をしています。
下の図は、GSMaPの降水量から求めた2022年7月の干ばつ指数(SPI)です。この指数は干ばつの起こりやすさを表しており、負の値ほど乾燥に伴う干ばつ傾向が強いことを示しています。この図では、ヨーロッパ西部、特にイギリスやベルギーにおける干ばつ指数が負の値になっています。ここから、2022年7月のヨーロッパ西部は例年と比べ降水が少なく、非常に強い干ばつが発生していたことが確認できます。

GSMaPから求めた干ばつ指標

世界の雨分布統計 GSMaP

干ばつ期の地上の様子 -GCOM-Wによる土壌水分量の観測

この干ばつが発生した時の陸上は、どのような様子だったのでしょうか。
現在多数の衛星が存在していますが、なかでもJAXAの衛星「しずく」(GCOM-W)は、地表の水の豊富さの観測に秀でています。
以下の図は、GCOM-Wが観測した地面が蓄えている水の量(土壌水分量)です。ヨーロッパ全域に対して土壌水分量が少ない地域ほど、赤褐色で示されています。ヨーロッパ西部と東部を比較すると、西部の方が赤褐色でプロットされており、特にイギリスはその傾向が顕著です。このことから干ばつ発生期の地表は、非常に乾いた土壌であったと分かります。

AMSR2による土壌水分量(2022年8月16日の日中観測データ) - AMSR地球環境Viewer

AMSR地球環境Viewer



気象に関する衛星というと「ひまわり」が有名ですが、現在は様々な衛星から観測データを得ることができます。
そのデータは気象や防災などの分野をはじめ、気候、農業、公衆衛生、教育などの多岐に渡る様々な分野で幅広く利用されています。

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