山田 朋人(北海道大学)
2014年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書では、将来地球の気温が2℃上昇することは避けられないとされています。このように地球全体の気温が上昇した場合に、北海道の気候はどうなるかを明らかにするために本研究を行いました。
北海道は、雪が主な水資源であるとともに、豪雨や豪雪に対して脆弱だという背景があります。雪や雨は気候変動に伴う気温上昇の影響を受けることから、将来の気候の予測がとても重要です。
気候変動に対する適応策は地域規模で実施されるものですが、将来気候の予測結果には、予測に使われる全球気候モデル(地球全体の気候を計算するモデル)、領域気候モデル(対象地域の気候を計算するモデル)、および温暖化シナリオ(将来の気候がどうなるか)のそれぞれに含まれる不確実性が反映されています。そこで、複数の全球-領域気候モデルによる将来予測手法を開発し、元の情報に含まれる不確実性を考慮した将来気候の予測を行うとともに、得られた将来予測結果を不確実性の情報を付けて分かりやすく公開するための「近未来ビューワ」という情報提供手段を開発しました。本研究で開発した3つの手法と「近未来ビューワ」について、以下に説明します。
①サンプリング・ダウンスケール手法
将来予測に必要な計算資源を縮約する統計的ダウンスケーリング手法です。対象地域の特徴的な気候が表れている年だけを選んでダウンスケールを行う手法で、全ての年のデータを対象にダウンスケールする従来の方法に比べて計算量が少なくて済みます。(図1)
②ハイブリッドダウンスケール手法
気温の将来予測値と観測値を組み合わせることで、予測が困難な将来の短時間強降水強度を推定する手法です。(図2)
③気温変化量から土地利用変化の影響を抽出する手法
気温上昇には、地球温暖化の他、その地域の土地利用変化も寄与しています。この手法は温暖化のうち土地利用の寄与を定量化する手法です。気温の変化のうち、地球温暖化による分と土地利用変化による分を分離することができます。(図3)
④近未来ビューワ
北海道における将来予測結果を不確実性情報付で公開するための情報提供手段で、北海道の気候変動情報と、気候変動への理解を深めるための資料を提供しています。北海道大学を中心に計算された地球温暖化時の地域気候予測データに基づく作図およびデータのダウンロードが可能です。また、北海道の気候変動に関する研究や講演会の情報も提供しています。政策立案者や利害関係者をはじめ、将来の気候変動に関心のある方にお使いいただけます。(図4)
本研究では、地方自治体や観光業との協働によって地域環境の現状や今後を考えつつ観光を通した地域活性化につながる活動も行いました。また、書店でのイベントへの出展や、大学でのイベント開催なども行いました。
今後は、近未来ビューワでの情報提供や自治体との協働を引き続き行う予定です。また、開発した手法は東南アジアや南アジアでの活用が始まっており、さらに発展させていきたいと考えています。