西森 基貴(農業環境技術研究所)
高知県は豊かな自然に恵まれ、米作りなど農業(第一次産業)が大変盛んです。しかしながら、社会・経済構造の変化で地域・地方の衰退も懸念され、また温暖化や豪雨など「異常気象・気候変動」に加えて、想定される南海トラフ地震に直面している高知県は、日本の中でも脆弱な位置にある、とも言えます。一方、ただ災害を防ぎ、気候の変化に適応して生き残るだけでなく、豊かな自然を生かし、地域を大きく発展させようという動きも進んでいます。本研究では、温暖化の詳細な予測やその影響・適応策をシミュレーションするだけでなく、地域と産学官が連携協力し、成果を地域社会に還元することを目指してきました。
高知県は台風の襲来が多いところです。集中豪雨をもたらす要因である台風の将来推定に関して、予測される降水量に応じた流出量の推定の不確実性をシミュレーションする新たな技術を開発しました。
また近年、農地が宅地になるといった土地利用の変化が周囲の環境に与える影響が懸念されています。本研究では少数の地域気候モデルにより土地利用の変化が気候に与える影響を簡単に推定できる技術を開発しました。この結果が国際誌に掲載され、発展途上国を中心に、その技術の説明や移転を求める声が上がっています。
高知県では温暖な気候と豊富な日射量を生かした園芸農業、ビニールハウス農業が大変盛んです。本研究では、園芸農業で使われるビニールハウス内を再現し、作物の生育までをシミュレーションする新たな技術を開発しました。このシミュレーションでは新たなビニールハウスの開発につながる実験も行っており、ナスを始め高知県特産品の収量・品質を確保するための新技術の開発及びそれを用いた販売戦略の立案に貢献しています。
このシミュレーションでは新たなビニールハウスの開発につながる実験も行っており、ナスを始め高知県特産品の収量・品質を確保するための新技術の開発及びそれを用いた販売戦略の立案に貢献しています。また、世界レベルのコメ生育シミュレーションモデル(農業環境技術研究所所有)と高知県各地の詳細な栽培技術データ(高知県農業技術センター所有)を用いて、高精度でのシミュレーションを行った結果、近年多発する異常高温の下では、コメの収量は低下し、タンパク質の含有量が増加することが推定されました(図1)。タンパク質の含有量の増加は食味の低下につながることから、窒素肥料を抑えコメのタンパク質含量を低下させ、米の食味を確保することを、県農業振興部環境農業推進課を通じた地域での営農指導のポイントとして提案しました。
本研究では、将来の台風の変化による降水量の変化及びそれによる流出量の変化に加え、ダム操作までを一体化した流出のシミュレーションを行っています。その結果、高知県鏡川ダムにおいて基準点での流量が今世紀末、最大で約1.3倍程度まで増加する可能性があることが分かりました(図2)。また、高知県土木部河川課や高知工業高等専門学校との協力の下、この最大流量が発生したときの市街地の氾濫予測や、断面解析による河川改修のポイント提示などを行っています。
地方における地域振興策の一つとして、小水力発電に対する期待が高まっています。高知県は水資源に恵まれています。この水資源を活用することを考えて、高知県林業振興環境部新エネルギー課と協力し、小水力発電の候補地における発電ポテンシャルの評価などを行ってきました。(図3)また、現在、本研究の成果が高知県地球温暖化対策実行計画に盛り込まれるよう働きかけを行っているところです。
気候変動に適応しつつ、産業を振興させる為には産学官が一体となった取り組みが必要です。そのため、本研究では高知県の協力も得て、毎年シンポジウムを開催してきました
このように、本研究では科学的・社会的成果を社会実装する取り組みを進めています。RECCAにより、気候変動研究の成果を社会実装するための種は播かれました。今後も、もっと地域が主体となり、産学官の連携でさらに多くの課題の解決を目指していきたいと思います。