Contents

Events

イベント情報

Documents

  • 公開資料
  • 発表論文

気候変動下における四国の水資源政策決定支援システムの開発

那須 清吾(高知工科大学)

研究領域
都市
研究テーマ
3:気候変動下における四国の水資源政策決定支援システムの開発
研究者インタビュー



  研究目的  対象地域と実施体制  研究成果  各年度の主な成果  発表論文  (参考)研究構成  

研究目的

四国地域での水資源管理における気候変動の影響を予測し、その結果に基づいて適応策を実施した際の影響の緩和を研究すること。

研究地域と実施体制

対象地域
四国及び吉野川流域
実施体制
共同研究参画機関: 東京大学
協力連携機関: 四国水問題研究会(香川県、徳島県、愛媛県、高知県、国土交通省、中央省庁出先機関、民間団体、マスコミ等)
四国・吉野川流域水問題
研究成果

 四国は水不足が多発する一方で、洪水の危険度も高い地域です。四国最大の河川である吉野川の流域は、頻繁に渇水・洪水に見舞われており、上流での森林荒廃による水資源への影響や、下流での水環境問題、さらに気候変動によりどのような影響が加わるかが問題になっています。

 吉野川の流域は4つの県にまたがることから、水利用の権利関係や社会経済に対する影響が複雑で、地域内あるいは流域内での水資源管理における課題解決に向けた合意形成が難しい地域です。また各地方自治体は、直接影響を受ける地域の立場から具体的な適応策を考える必要がありますが、気候変動の具体的な影響を予測することができず、独自に適応策を出すのは難しいのが現状です。

 このような背景のもと、四国地域での水資源管理において気候変動がどのような影響を与えるのかを予測し、その結果に基づいて適応策を実施した際の影響の緩和を研究するとともに、その情報を市民に提供する座談会において適応策の合意形成を試みる擬似地域経営を行うことで、地方における適応策立案のあり方を検討することを目的として、本研究を行いました。

 本研究では、気象学、水文学、経済学等の多様な学問を統合したシミュレーションモデルを開発することで、グローバルな気候変動の情報から、四国、吉野川流域、各市町村といったローカルな地域が受ける影響を予測する方法を確立しました。具体的には、地球全体の気候変動の将来予測結果に基づき、四国地方の気候が将来どのように変化するのかを予測できる気候変動予測モデルを作成しました。その結果得られた将来の雨の降り方の季節毎の変化を、吉野川流域に当てはめて、その雨がどのように吉野川に流れ込み、水資源として使えるのか、どの程度ダムに貯めることが出来るのか、あるいは、どの程度の規模の洪水が発生するのかを予測しました。水資源の不足量は経済モデルで解析して経済的損失に置き換えられます。このようなプロセスで全ての学問を繋いだ将来のシミュレーションモデルから、気候変動が地域に与える影響を予測出来るシステムをつくりました。(図1

 このシステムにより予測を行った結果、高松市では渇水レベルは変わらないが、水資源のある年とない年が非常に激しく変動し、四国中央市では変動は小さくより確実に渇水することが分りました。(図2) これら2つの都市は距離的には近いものの、全く違った結果となりました。このように、グローバルな気候変動の影響をローカルに再現すると地域性が出るため、同じような政策を統一的にとることは適切ではないことが分りました。

 このような情報は、四国4県にてシンポジウムを開催し、市民に提供しました。また、高松市と四国中央市では市民との座談会を7回開催し、情報に対する意見交換や適応策に関する議論を重ねました。(図3) 座談会では、「気候変動はどうして起こるのか」という基本的な話題から、四国の気候変動や社会経済に対する影響までを丁寧に説明し、市民から提案された適応策を段階を踏んで検討しました。その結果、市民の気候変動に対する理解が進むとともに、市民との信頼関係が深まり、政策の合意形成がスムーズに行えました。このように、地方における政策決定のシミュレーション、および市民が合意し納得できる適応策を形成してゆく上での模擬的な政策決定を再現することができました。(図4) また、議論を重ねることによって、行政、企業、市民の役割分担が明確になり、さらに国の適応策や政策についても議論をすることができました。

 適応策を考える上で、気候変動というグローバルな現象を市町村単位の限定された地域の影響としてシミュレーションするプロセスは、これまでほとんど例がありませんでしたが、本研究により確立することができました。本研究は愛媛県四国中央市と香川県高松市を主な対象として行いましたが、その他の場所でも、このプロセスをそのまま実行すれば同じように予測が可能で、適応策の評価も行うことができます。

 この取り組みは発展途上国においても評価されており、例えばタイ政府とは、この成果をどのようにタイ国内の気候変動の予測あるいは適応策の検討に生かせるかの研究を行っています。今後は、この研究成果をさらに発展途上国支援に生かしていく予定です。


図1 気候変動インパクトを予測する学術分野統合シミュレーションモデル


図2 過去と将来の渇水予測(高松市(上)、四国中央市(下 ))
高松市では将来20年の間に約20万トンから200万トンの水が不足するという、変動率が1000%の非常にばらつきの多い結果となりました。このように、現在提供できる気候変動に関する情報には大きな不確実性が含まれますが、適切な説明により、市民にも理解してもらうことができました。


図3 市民との座談会

図4 模擬的な政策決定の再現

各年度の主な成果


発表論文


(参考)研究構成

 四国は水不足が多発し洪水の危険度も高い地域ですが、気候変動によりさらに厳しい環境におかれると予想されています。喫緊の課題は、気候変動が、利水、洪水、水環境にどの様な影響を与えるかを評価し、水資源政策によってどの様に気候変動に適応できるかを定量的に把握することです。
 そこで、本研究では、四国・吉野川流域を対象とし、気候変動による水資源の変化や洪水・干ばつなどの自然現象とその社会経済への影響に対する適応策立案に資する情報を提供するため、「気候変動予測モデル」、「水資源量および変動量を予測する水文モデル」、「社会科学的なインパクトの評価モデル」、「適応策オプションの評価および選択システム」の統合シミュレーションモデルを構築します。

 

研究テーマ3:気候変動下における四国の水資源政策決定支援システムの開発

(1)気候変動の「予測の科学」 地域・流域スケール水循環に関する気候変動予測の不確定性の定量的評価と改善 ・地域スケール(吉野川流域)の気候変動による水循環の変化を、不確定性の定量的評価を含めてシミュレーション可能なモデルの構築
(2)気候変動の「影響評価」 気候変動が地域・流域スケールの干ばつ・水害・水質汚染・社会経済等に与える影響の評価 ・評価のためのモデルを構築
(3)気候変動への適応策の「策定」 不確定性を考慮した社会的便益を最大化するオプション選択システムの構築 ・将来の適応策に関わる便益の期待値に基づき現時点の政策案を決定し、社会的便益を最大化するためのシステム構築
1. 気候変動予測モデル 2. 水資源量および変動量を予測する水文モデル
・水質評価モデル ・市民の意識構造ロジックモデル ・利害構造ロジックモデル 3. 社会科学的なインパクトの評価モデル
4. 適応策オプションの評価および選択システム
(4)気候変動への適応策の「実施」 気候変動への適応策の実施のための地域経営システムプロトタイプの構築 ・市民の意識構造モデルを構築 ・①〜④の統合シミュレーションモデルにより気候変動の影響と適応策を評価 ・気候変動の影響と適応策に対する市民の反応を統合シミュレーションモデ  ルに反映し、シミュレーションモデルを検証・修正
地域経営システムのプロトタイプ
気候変動による水資源の変化や洪水・干ばつなどの自然現象と
その社会経済への影響に対する適応策立案に貢献