大楽 浩司(防災科学技術研究所)
地球温暖化に対する緩和策を講じたとしても、その影響は数世紀にわたって続くため、異常気象に伴う災害の頻度や規模などの影響や社会システムの脆弱性を評価し、地域における適応策を検討することが急務となっています。
本研究では、低炭素化社会と気候変動に適応した社会を実現するために、自治体の適応戦略の策定・検討に役立つ科学的な知見を提供することを目的として、シミュレーション技術の開発に取り組み、次のような技術を開発しました。
(1)全球レベルの気候モデルによるシミュレーション・データをダウンスケーリングし、東京都市圏といったスケールの詳細な気候情報を創出する技術
(2)洪水・河川氾濫の発生確率等の水害リスクを評価する技術
(3)低炭素化・防災・高齢化等に伴う土地利用変化も考慮した適応のためのシミュレーション技術
これらは、自治体レベルでの防災・環境面での適応戦略の検討に役立つ知見を提供し、2020年東京オリンピックも視野に入れたしなやかな都市デザインを支援するための技術です。
これらの技術開発の成果について説明します。
(1)全球レベルの気候モデルによるシミュレーション・データをダウンスケーリングし、東京都市圏といったスケールの詳細な気候情報を創出する技術
複数の代表的濃度経路(RCP; Representative Concentration Pathways)シナリオ、気候モデル、過去から将来にわたる土地利用適応シナリオ、都市の3次元構造を考慮した、高解像度の地域気候変動シナリオの作成が可能になりました。これにより、気候変動の人間活動への影響、および人間活動の地域気候への影響を、詳細に検討することができるようになりました。(図1)
(2)洪水・河川氾濫の発生確率等の水害リスクを評価する技術
気候変動による水害のリスクの大きさと、人為的な要因による水害のリスクの大きさを、相対的に評価する手法を開発しました。この手法により、気候変動と人口・土地利用変化の影響を考慮した水害リスクを評価できるようになりました。一例として、図2の評価では、東京都市圏において、21世紀の半ばでは水害リスクに対する社会経済変化の影響が大きく、その後21世紀の終わり頃には気候変動による水害リスクへの影響が大きくなってくるという結果が出ました。
(3)低炭素化・防災・高齢化等に伴う土地利用変化も考慮した適応のためのシミュレーション技術
太陽電池(PV)、電気自動車、水害リスク等、多面的で現実的な視点を考慮した土地利用適応シナリオの検討が可能になりました。(図3)
本研究では、自治体やコンサルタント会社等の民間企業と意見交換を行いながら、これらの開発した技術を活用して、自治体における適応策策定を支援するためのシミュレーション技術を開発しました。開発したシミュレーション技術は汎用性が高く、自治体やコンサルタント等に提供可能です。また、本研究の成果の活用については、自治体等と一緒に検討を進めています。
気候変動に伴う異常気象が海面上昇等と重複して発生すると、これまでの危険度評価に基づく地域計画では対処できない可能性があるため、気候変動影響の特性および社会システムの脆弱性変化を考慮して、気候変動への適応策を検討する必要があります。本研究では、東京都市圏を対象として、自治体の適応戦略の策定・検討に資する科学的知見の提供に必要な、土地利用変化シナリオを用いた地域気候シミュレーション技術、および風水害脆弱性評価に基づく適応シミュレーション技術の開発を行います。
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