淡路 敏之(海洋研究開発機構)
本研究は、青森県の主力魚種であるアカイカを対象に、温暖化に伴う漁場や水産資源量の変動の推定を行うとともに、適応策を作るために必要な情報を青森県の漁業者に提供することを目的として、次の2つを研究テーマとして実施してきました。
(研究テーマ)
①ピンポイント漁場予測として、日々の漁場がどこにどのような形でできるのかを推定する技術を確立する
②アカイカの漁獲量が毎年どのように変動するのか、また温暖化に伴ってアカイカが減るのか増えるのかなどについて調べる
アカイカは日中100〜300mの深い海におり、夜間は水面近くに上がってきます。アカイカのこの行動を把握し漁場を推定するためには、海中の水温や潮の流れの速さなどの情報が必要ですが、海の深い所は簡単には計測できません。本研究では海の天気予報で使われている「データ同化」という技術を利用し、深さ100〜300mの水温や流れを推定する手法を確立しました。(図1)
こうして得られた情報を利用して、実際にアカイカの漁に適した漁場推定を毎日行い、その結果を漁業者にリアルタイムで配信しています。(図2)漁業者からは、これまで分からなかった深いところの水温や流れの情報が分かったため、「漁場探索が効率化され燃料費も節約できた」という喜びの声もいただいています。
アカイカの漁獲量は、気候変動の影響を大きく受けています。温暖化に伴うアカイカ漁への影響を資源量および漁場形成の面から検討しますと、資源量については増加する可能性があることが分かりましたが、漁場については、あまり良い漁場ができないのではないかという研究結果が出ています。
このように本研究で開発したデータ同化及び漁場推定システムは、実際の漁業において有効に利用されています。さらに、海洋の情報をより直感的に理解できるよう、携帯情報端末を利用してタッチパネルなどの操作で海の中を見る事ができる可視化ツールも開発しました。(図3)このツールは広く一般に公開されております。
この研究で開発した情報提供システムは、平成27年度以降に青森県を中心とした産官学の連携によって、継続的に運用していきます。
地球温暖化による気候変動等に伴う生物激変に適応した漁業の実現には、海洋物理場から生態系にわたる海洋環境の診断・予測や漁場分布変化と水産資源量変動の適切な把握が必要です。本研究では、ダウンスケーリング及び大気・海洋・生態系データ同化システムを開発するともに、気候変動に適応した漁海況情報に基づく新しい漁業モデルの確立に資するため、青森県が漁獲高日本一を誇るアカイカを対象に開発システムにより得られたデータを利活用し、中長期変動影響下におけるピンポイント短期漁場探索技術の開発及び中期水産資源変動推定手法の開発を行います。
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